花札は、12か月それぞれに草花が割り当てられ、各月4枚ずつで季節を表す遊び札です。
ここでいう「9月」は“新暦9月”ではなく、
季節感としては旧暦の9月(いまの暦だと10月前後の空気)を思い浮かべると、札の意味がつながりやすくなります。
9月札の「菊に盃」は、
菊の花に寿の盃が置かれた
重陽の節句の札。
ただの“秋の花”というより、秋の節目の祝いごとまで一緒に描いた札として読むと、
いちばんしっくりくる一枚です。
「菊に盃」は、重陽の節句を一枚に圧縮した札。

この札は、香り・露・酒・祝いの気配が、ぎゅっと圧縮されています。
見どころは大きく3つです。
菊(きく)
秋の花として美しく、
古くから長寿や厄除けと結びつけて語られてきた
盃(さかずき)
9月9日の行事「重陽(ちょうよう)」で飲む
菊酒の気配を連れてくる
寿(ことぶき)
盃に書かれがちな「寿」の字が
“祝い”と“長寿祈願”の札だと決定づける
ここから先は、そもそも重陽とは何か、
なぜ菊なのか、なぜ菊酒なのか。
そして菊が和歌の中でどう言葉にされてきたかを、短く拾っていきます。
重陽とは?──9月9日の“節目の祝いの日”

重陽(ちょうよう)は、9月9日の節目の日です。
昔の考え方では、奇数は「陽」の数。
その最大である「9」が重なる9月9日は、縁起のよい日として特別に扱われました。
そしてこの重陽は、別名で「菊の節句」とも呼ばれます。
つまり、9月の節目を祝う行事の中心に“菊”が座っている、ということです。
参考:日本人形協会「重陽の節句」
9月「菊に盃」は“重陽の空気”が読みやすい
「菊に盃」を、ただの“秋の花札”として見るよりも、
旧暦9月9日の節目=重陽の空気を一枚の絵で持ってきている札として見ると、解釈がまとまります。
重陽は、めでたい節目の日。
そこで願うのは、無病息災や長寿といった“身体の願い”です。
この「長寿を願う」という目的に、菊がとても相性のよい花として選ばれていきました。
菊酒──盃が描かれるいちばん分かりやすい理由

参考:朝日酒造株式会社
重陽の代表的な風習として語られるのが、菊酒です。
菊の花びらを杯に浮かべたり、菊にちなんだ酒を口にしたりして、長寿を願う。
この“菊+酒+長寿祈願”の組み合わせがあるからこそ、花札の図柄に「盃」が置かれていることが一気に説明できます。
菊だけなら「秋の花札」で終わります。
盃があることで、「行事(重陽)」「風習(菊酒)」「願い(長寿)」まで一緒に入ってくる。
「菊に盃」は、菊酒の札。
そう言い切っても大きく外れないくらい、読みやすい構図です。
盃の「寿」が、この札を“祝い札”に決める

「菊に盃」が強いのは、菊と盃が並ぶだけじゃありません。
盃に書かれることが多い「寿(ことぶき)」の字が、意味を一文字で固定してくれます。
寿=祝いのしるし。
祝い=節目の行事。
そして重陽は“長寿を願う祝い”。
つまり「寿」は、この札を「秋の節目を祝う、長寿祈願の札」として決定づける記号になります。
菊の花の前に盃があり、その盃に寿がある。
この3点セットで、図柄だけで意味が読めるようになっているわけです。
菊水伝説──「菊の露の水」が長寿をくれる、という物語

菊と長寿の結びつきは、理屈だけでなく“物語”としても語られてきました。
唐代の類書『芸文類聚』の「菊」の項目には、いわゆる「菊水伝説」と呼ばれる故事が引かれる、とされます。
菊の雫を含んだ水を飲む=生気を得る。
このイメージが、「菊は長寿に効く」という感覚を物語として支えています。
花札の図柄にも、菊の露や香りを連想させる空気があるのは、
こうした“菊=延命”の語りが背景にあるから、と考えると面白いです。
その他中国の「菊は長寿」が記された内容
西晋の傅玄(ふげん、217年 – 278年)の「菊賦」にも、「菊を服すものは長寿」とあり、
晋の葛洪(かつこう、283年~343年)の「抱朴子」内編、「金丹」には、菊を使った長寿薬の製法が記されています。
参考:菊渓菊に関する参考資料
「菊=長寿」が日本側の憧れになっていく

こうした「菊=長寿」の語りは、日本の王朝文化にも刺さります。
宮廷では重陽(九月九日)を、長寿や無病息災を願う節目として扱い、菊を愛でる宴や菊酒の習わしが語られてきました。
参考:ジャパンナレッジ
また、平安以前の宮中の宴にまつわる記録として
宮中の宴の記録として“菊を惜しむ歌”が残っていることも知られています。
ここで重要なのは、菊がすでに「ただの秋の花」ではなく、文化的に“主役の花”として扱われている点です。
そう考えると、花札の9月が「菊」で、しかも「盃」まで置かれているのは、とても自然に見えてきます。
参考:9月9日重陽の節供。日本気象協会 菊にまつわるお話 同志社女子大学
まとめ:なぜ「菊に盃」は秋の札なのか
花札の9月「菊に盃」は、菊が咲く季節に“重陽(菊の節句)”の祝いを重ねた札です。
重陽は、菊酒で長寿を願う日。
だから菊の前に盃が置かれ、盃の「寿」がその願いを一文字で言い切ります。
この札は、ただの秋の花ではなく、「秋の節目」を描いた一枚。
そう読むと、図柄の意味がいちばん気持ちよくつながります。
よくある質問Q&A
- 「菊に盃」って結局なに?
-
花札(こいこい)の9月札のひとつで、菊の前に盃(さかずき)が描かれた札です。多くのルールでは「タネ(種札)」扱いになります。
- どうして菊の前に“盃”が置かれているの?
-
旧暦9月9日の行事「重陽(ちょうよう)=菊の節句」で、菊酒を飲んで長寿や無病息災を願う風習と相性が良いから、という読み方がいちばん分かりやすいです。
- 「菊に盃」は秋の札? 9月って初秋じゃないの?
-
花札の月は季節感として“旧暦”寄りに考えるとつながります。旧暦9月は、いまの暦だと10月前後の空気に近く、菊=晩秋のイメージが合いやすいです。
あわせて読みたい
花札の月は旧暦?新暦?「季節のズレ」を知ると札の由来がもっと分かる 花札の「1月〜12月」は旧暦の季節感がベース。新暦とのズレ、閏月で動く理由、明治の改暦、七夕・十五夜・重陽など行事との対応をまとめて解説。 - 盃に書かれている字はなに?
-
多くの図案では「寿(ことぶき)」が書かれます(メーカーや絵柄で違いが出ることもあります)。祝い・長寿祈願のニュアンスを一文字で示す記号として読めます。
- 「菊に盃」は光札なの?
-
ふつうは光札ではありません。多くのこいこいルールだと「タネ札(種札)」として数えます。
- こいこいの役では何に関係する?
-
代表的には「月見で一杯(芒に月+菊に盃)」のペア役に関係します。あわせて、盃札はタネ(種)としても枚数に入ることが多いです。
※点数や採用役はローカルルールで違います。 - 菊酒ってなに? 本当に菊を入れるの?
-
イメージとしては「菊にちなんだ酒で祝う/長寿を願う」風習です。花びらを浮かべる・菊に触れさせた酒を飲む、などの語られ方があります(行い方は地域・時代で幅があります)。
- 菊水伝説ってなに?
-
“菊の露(雫)が落ちる水を飲んだ人々が長寿になった”という筋の、菊=延命のイメージを支える伝説として語られるものです。「菊に盃」を“長寿の札”として読む補強材料になります。
- 実戦的には「菊に盃」は取るべき?
-
盃は「月見で一杯」のキー札で、タネ(種)としても数えられることが多いので、基本的には早めに確保すると選択肢が増えます。
ただし、手札・場札の形(赤短/青短・猪鹿蝶など)が見えているなら、そちらの成立確率と天秤にかけるのがコツです。 - 読み方は?「きくにはい」?
-
「きくにさかずき」です。
おすすめ花札記事
「花札って結局なに?」
「48枚の見方・役・遊び方(こいこい/花合わせ/八八)までまとめて知りたい」人向けに、
全体像を1ページに整理しました。
を1ページで解説.webp)
花札早見一覧表で、一目で確認したい人向け

こいこいの流れ
(打つ→めくる→役→こいこい判断)を先に読むと迷いが減ります。









と菊酒を図柄から読む.webp)
