花札は、12か月それぞれに草花が割り当てられ、各月4枚ずつで季節を表す遊び札です。
季節語の整理では秋を初秋・仲秋・晩秋に分け、仲秋は旧暦8月を指します。
8月札の「芒に雁」は、
芒(すすき)の丘を
秋が深まる頃に渡ってくる雁が横切る図柄。
初秋から仲秋へ
秋が深まっていく一枚です。
「芒に雁」は、草の波と遠い声を一枚に圧縮した札

見どころは大きく2つ。
芒(すすき/尾花)
秋の野を成立させる“草”として、
古典で繰り返し詠まれてきた
雁(かり)
飛来と鳴き声(雁が音)で
季節の移りを連れてくる鳥
ここから先は、芒と雁が歴史的にどう見られ、どう言葉にされてきたかを、和歌ベースで拾っていきます。
8月「芒に雁」は“仲秋”の札として読みやすい
仲秋は旧暦8月。
だから「芒に雁」は“秋の中ほど”として読みやすい。
この整理に従うなら、8月札「芒に雁」は”秋の中ほど”の景として読むのが自然です。
芒が野の広がりを作り、
雁が風と声で季節の移動を知らせる。
この二つが揃うと、8月札の雰囲気が一気に固まります。
芒(薄・尾花)は、昔から「秋の野」の中心にいる
尾花(すすき)は、万葉集で「秋の七草」に数えられている

山上憶良の「秋の七草」の歌では、萩と並んで尾花(=すすき)が名指しで挙げられています。
ここで芒は単に“秋っぽい草”ではなく、古典の側から「秋の野」を成立させる代表格として立っています。
詳しくは7月の萩に猪の内容をどうぞ

「萩が秋」だけじゃない。「尾花こそ秋」も万葉の感覚

万葉集には、こんな言い切りもあります。
萩が“秋の花”の代表として語られる一方で、
尾花(=すすき/芒)もまた、秋そのものを背負える存在として意識されていた
――そんな万葉の感覚が、ここに残っています。
旧暦8月らしい芒の周辺:八朔と「尾花の粥」

季語の整理では、「尾花の粥(尾花粥/薄粥)」が仲秋として立ち、
八朔(旧暦8月1日)のお祝いに食べた、と説明されています。
参考:きごさい歳時記
おかゆワールドに「八朔の日の尾花粥(黒ごま粥)」載っています。
おいしそうです。
旧暦8月(=仲秋)の札として見ると、
芒が「野の景」だけでなく「暮らしの側」にも入ってくるのが面白いところです。
雁は「秋が進む合図」になって、冬へ橋をかける
雁(かり)とは――秋に渡ってくる“渡り鳥”
とは――秋に渡ってくる渡り鳥-1024x538.webp)
雁(かり)は、季節と一緒に移動してくる鳥です。
春夏の鳥と違って、「飛来すること」自体が“季節の進行”を知らせるサインになりやすい。
花札の8月「芒に雁」も、この“移動の気配”を一枚に閉じ込めた図柄として読むとわかりやすくなります。
参考:環境省の資料「国指定鳥類保護区における渡り鳥の状況」
花札の雁は、芒の丘を「群れ」で横切る

花札の雁は単体ではなく、空に点が連なるように描かれています。
雁は群れで飛び、列をつくって渡る鳥としてイメージされてきました。
芒の丘の上を横切る“列”が入るだけで、札の空気が「秋が動いている」感じに変わります。
雁が列をなす――「つらねて」が効いてくる(古今和歌集)
古今集には、雁を「つらねて(連ねて)」と捉える歌があります。
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この言葉ひとつで、雁が“列になって渡っていく鳥”として読者の頭に像を作れます。
そしてこの像が、そのまま花札の「芒の丘を横切る雁」の見え方に繋がります。
まとめ:雁は「秋が進む合図」になって、冬へ橋をかける
ここまでの和歌と季語をまとめると、
雁は「渡ってくる」「列をなす」「(雁が音=)鳴く」ことで、
秋を一段深いほうへ動かす存在として働いてきたことが見えてきます。
そして雁の到来には、
北から吹く風ごと「雁渡し」という名前が付いた
――だから雁は、秋が進む合図としていっそう確かな手触りになる。
季節語「雁渡し」――雁といっしょに来る北風

「雁渡し(かりわたし/雁渡)」は、雁が渡ってくる頃に吹く北風のこと。
季語としては秋に置かれ、別名に「青北風(あおぎた)」もあります。
参考:日本気象協会 きごさい歳時記
辞書では「初秋に吹く北風」と説明され、
地域や説明によっては「9〜10月ごろ」とも言われます(=旧暦の季節感だと“秋が進む頃”の風)。
雁が飛ぶ。雁が鳴く。——それだけでも秋は動きます。
でも「雁渡し」まで来ると、鳥の到来が“風の変化”として体に触れる。
秋が進んだことを、目と耳だけじゃなく、肌で確かめられるようになります。
そして最後に残るのが、”耳で分かる秋”。
雁は姿より先に、鳴き声で季節を知らせる鳥として語られてきました。
その声のことを、古典では「雁が音(かりがね)」と呼びます。
雁が音(かりがね)──姿ではなく「声」で秋が決まる
きゅっきゅっ、という可愛い鳴き声
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雁が音=雁の鳴き声(秋の季語)
雁は“姿”より先に“声”で来る。
だから「芒に雁」の札は、目で見る秋から、耳で聞く秋へ切り替わる札になります。
「雁が音」は辞書的に「雁の鳴き声」(季語・秋)
コトバンク(日本国語大辞典系)でも、
雁が音はまず「雁の鳴き声」とされ、季語として秋に置かれています。
雁は“姿”より先に“声”で来る。
だから「芒に雁」の札は、目で見る秋から、耳で聞く秋へ切り替わる札になります。
万葉集:雁の声が聞こえるほど、紅葉が始まる

万葉集に、雁がやってくると紅葉が始まるという歌があります。
雁の声は、秋の進行度を測る“合図”として詠まれている。
この感覚が、8月札の雰囲気を一段深くします。
万葉集:雁は「遠ざかる」——雲に隠れながら遠くなる声
雁が音は“鳴いた/鳴かない”だけじゃなく、距離感そのものを運んでくる。
芒の野の広がりと相性がいい理由が、ここにあります
この流れがあると、8月札の読みが一段深くなります。
芒の野の上に雁が入り、雁が音が鳴った瞬間、秋は”次の景色”へ進みはじめていくのです。
まとめ:8月「芒に雁」は、仲秋(旧暦8月)の空気を一枚にする
仲秋=旧暦8月。だから「芒に雁」は、”秋の中ほど”をそのまま描ける札です。
芒が野をつくり、雁が渡って季節を動かす。
さらに「雁渡し」で秋は肌に触れ、「雁が音」で秋は耳に届く。
目・肌・耳の三つがそろったとき、仲秋の空気は一枚の札として完成します。
よくある質問Q&A
- 8月札の「芒に雁」は何を表しているの?
-
芒(すすき)の丘の上を、秋に渡ってくる雁が群れで横切る図柄です。野の広がり(芒)と、季節の移動の気配(雁)が一枚にまとまっています。
- 花札の8月は「仲秋(ちゅうしゅう)」で合ってる?
-
合っています。
季節季節語の整理では、秋を初秋・仲秋・晩秋に分け、仲秋は旧暦8月を指します。だから8月札「芒に雁」は、仲秋の札として説明できます。 - 「仲秋」と「中秋」は違うの?
-
使われ方が重なることがありますが、季節区分としては「仲秋=秋の中ほど(旧暦8月)」の意味で使われます。本文では“季節の区分”として仲秋を採用しています。
- 芒(すすき)と尾花(おばな)は同じ?
-
ほぼ同じです。古典では芒を「尾花」と呼ぶことが多く、万葉集の「秋の七草」にも尾花として挙げられています。
- どうして芒(尾花)が「秋の代表」なの?
-
秋の七草に数えられ、秋の野を象徴する草として繰り返し詠まれてきたからです。花や紅葉の前に、まず“野の景”を成立させる存在として扱われます。
- 雁(かり)はどうして秋の鳥なの?
-
雁は季節と一緒に移動する渡り鳥で、「渡ってくること」自体が秋の進行を知らせる合図になりやすいからです。花札でも“秋が動く感じ”を担うモチーフになります。
- 花札の雁が「群れ」で描かれるのは意味がある?
-
あります。雁は列をつくって飛ぶ鳥としてイメージされ、和歌でも「つらねて(連ねて)」のように“列”の感覚が効いてきます。芒の丘を横切る群れは、季節が進む動きを強めます。
- 「雁渡し(かりわたし)」って何?
-
雁が渡ってくる頃に吹く北風のことです。鳥の到来が“風の変化”として感じられるので、「秋が進んだ」と肌で分かる季節語になります。
- 「雁が音(かりがね)」って何?読み方は?
-
「雁が音」は“雁の鳴き声”のことです。読みは「かりがね」。雁は姿より先に声で季節を知らせる存在として語られてきました。
- 「芒に雁」はどんな季節感の札?
-
初秋から仲秋へ、秋が深まっていく途中の札です。芒で“秋の野”ができ、雁で“移動”が入り、雁渡し(風)や雁が音(声)で秋が立体的になります。
- 旧暦8月は今の暦だといつ頃?
-
年によってずれますが、だいたい現在の暦では9月〜10月頃に当たることが多いです。だから「芒に雁」を仲秋として読むと、体感の季節とも合わせやすくなります。
- 八朔(はっさく)と芒は関係ある?
-
季語の整理では「尾花の粥(薄粥)」が仲秋に置かれ、八朔(旧暦8月1日)のお祝いと結びつけて説明されることがあります。芒は“野の景”だけでなく“暮らし”にも入ってきます。
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