【花札の由来】10月「紅葉に鹿」はなぜ晩秋?旧暦10月(神無月)の“人恋しさ”を図柄から読む

10月の札「紅葉に鹿」は、
晩秋の人恋しさを、
紅葉と鹿でそのまま形にした札です。

景色が深まるほど、気持ちも静かに沈んでいく。
その“秋の終盤”の空気が、この一枚には入っています。

目次

「紅葉に鹿」は、晩秋の“色”と“声”を一枚に圧縮した札

見どころは大きく2つ。

牡鹿
秋に「妻恋い」で鳴く
=人恋しさの”声”

紅葉
晩秋に葉が色づく
=秋の終盤の”色”

ここから先は、鹿と紅葉が「晩秋」を背負う根拠を、和歌ベースで拾っていきます。

10月「紅葉に鹿」は“晩秋〜初冬の入口”の札として読みやすい

10月札は、基本的に旧暦10月(神無月)の季節感で読むのが相性がいいです。

神無月(旧暦10月)は、新暦に直すと11月末頃に当たります。
旧暦10月の別名に「開冬」「初霜月」など“冬の気配”が入るのも、空気感として分かりやすいところです。
参考: SKYWARD+ スカイワードプラス 

つまりこの札は、秋の真ん中というより、
秋がいちばん深くなる時期(=晩秋)を担う札になりやすい。

鹿は「恋煩い」の比喩として定着している

秋の鹿は、古典の中でほぼして「妻恋い」で鳴きます。
辞書でも「秋の鹿」は、秋季に牡鹿が牝鹿を求めて鳴くことから、片思い/恋煩いの意味を持つと説明されています。

鹿が“妻恋い”として詠まれている(万葉集)

鹿=恋の象徴は、雰囲気ではなく歌に書かれています。

妹を思ひ寐の寝らえぬに 秋の野に さ雄鹿鳴きつ 妻思ひかねて
(巻15-3678)読み人知らず 参考:万葉百科

妻を思って寝ることかできないでいると、秋の野に男鹿が鳴く。鹿も思慕に堪えかねて。

 (クリックすると開きます)妹=愛おしい人の意味

この歌の「妹(いも)」は、実の妹(きょうだい)ではなく
和歌でよく使う 「恋人・いとしい女性(妻/恋しい人)」 という呼び方です。

万葉集だと、男性が想う相手を「妹」、
女性が想う相手を「背(せ)」などと呼ぶ用法が定着していて、この歌もそのパターンです。

宇陀の野の秋萩しのぎ 鳴く鹿も 妻に恋ふらく 我には益さじ
(巻8-1609) 丹比真人  参考:万葉百科

宇陀の野の秋萩を押し伏せて鳴く鹿も、妻を恋うことは私に及ばないだろう。

この蓄積があるから、10月札の鹿は「秋の動物」じゃなく、
秋の“人恋しさ”そのものとして置けます。

紅葉は「晩秋」の季節語として立っている

紅葉(もみじ)は、辞書で最初に「晩秋に草木の葉が赤や黄色に色づくこと」と説明されます。
つまり紅葉だけで、季節が“終盤”まで進んだことが分かります。

紅葉が晩秋に寄る理由:「うつろうもの」として詠まれる(古今和歌集)

紅葉は、色づいた瞬間から「散る/変わる」の側を背負います。
古今和歌集のこの歌は、紅葉を“うつろうもの”として正面から言い切ります。

ちはやぶる 神なび山の もみぢ葉に 思ひはかけじ うつろふものを
参考:三省堂辞書ウェブ編集部によることばの壺

神さびた神なび山の紅葉なんかに、私は心をかけまい。
どうせ色が変わって(やがて散って)しまうものなのだから。

蛇足:恋の歌なの?(ざっくり説明)

紅葉は、景色そのものだけじゃなくて「女性」を遠回しに言っている、と読む説もあります。
神奈備(かんなび)は神さまのいる神聖な場所のことなので、「神なび山の紅葉」は“神域にいる高貴な女性”みたいなイメージにもつながります。
また「思ひかく(思ひ掛く)」は、ただ気にかけるだけじゃなく「恋しく思う/恋する」という意味でも使われます。
だから「届かない相手への恋はしない」という、身分差をにじませる鑑賞もできそうです。

紅葉が「美しい秋」だけじゃなく、
終わりへ向かう秋(晩秋)の気分に直結する理由が、ここにあります。,

「紅葉×鹿」で、晩秋の“さびしさ”が完成する(百人一首の定番)

紅葉は晩秋の色。
鹿は晩秋の声(妻恋いの鳴き)。

この2つが合わさると、景色と感情が同時に決まる。
それを代表するのが、百人一首でも有名なこの歌です。

奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき
古今・秋上・二一五・猿丸大夫 / 百人一首

鹿の声を聞いたときこそ、秋が身にしみて悲しい
参考:三省堂辞書ウェブ編集部によることばの壺

花札10月「紅葉に鹿」は、たぶんこの回路を一枚にした札です。
晩秋の山は、美しいのに、どこか人恋しい。

シカトは10月札(紅葉に鹿)から来たと言われる

しかと
無視すること。
また、仲間はずれにすること。

「シカト(無視する)」は、
花札10月の絵柄(紅葉に鹿)で、
鹿がそっぽを向いているところから来た――という説明が、辞書にも載っています。

補説として「昭和30年代後半から若者の間で使われ始めた」という時期感も示されています。

シカトは、警察側がまとめた隠語資料にも登場する

そして面白いのは、この“花札由来”の話が、警察側がまとめた隠語資料にも登場する点です。

『警察隠語類集』に「しかとう(=とぼける)」が載っていて、
由来として 花札10月(モミヂ)の鹿が“十点札”で、しかも横を向いていることが説明されている――と紹介されています。
参考:シカト/しかと – 語源由来辞典

つまりイメージとしては、
「しかとう(鹿十)=とぼける/知らないふり」→「しかと」→「シカト(無視)」
のように省略・一般化していった、という流れです。

10月札の鹿がただの情景じゃなく、
現代語にまで影響を残した“文化の札”として読めるのが面白いところです。

まとめ

10月「紅葉に鹿」は、旧暦10月(神無月)=晩秋〜初冬の入口の空気を、紅葉の“色”と、妻恋いに鳴く鹿の“声”で固めた札です。
紅葉は「うつろうもの」として詠まれ、鹿は恋煩いの比喩として定着している。
だからこの一枚は、ただ“秋らしい”のではなく、晩秋の人恋しさまで含めた札として読めます。

よくある質問Q&A

花札の「紅葉に鹿」って、結局なにを表してるの?

旧暦10月(神無月)あたりの、晩秋の空気を一枚にした札です。紅葉=秋の終盤の色、鹿=妻恋いに鳴く声(人恋しさ)で、景色と感情を同時に立ち上げます。

どうして10月が紅葉なの?

紅葉は「晩秋に葉が色づくもの」という意味合いが強く、秋が深まったことを一発で伝えられるからです。「秋の真ん中」より、終盤の象徴として置きやすい札です。

どうして10月に鹿が描かれてるの?

秋は鹿の繁殖期で、牡鹿が牝鹿を求めてよく鳴く季節だからです。古典ではその鳴き声が「恋」「人恋しさ」の比喩として定着していきました。

「鹿=恋煩い」って本当?根拠ある?

あります。万葉集には、鹿が「妻を思って鳴く」ことをそのまま恋心に重ねた歌が複数あります。記事内で引用した2首(巻15-3678/巻8-1609)がその代表です。

万葉集の「妹(いも)」って実の妹?

違います。和歌での「妹」は、たいてい 恋人・いとしい女性(妻・恋しい人) の呼び方です。
血縁の妹と区別するのが大事ポイントです。

「紅葉に鹿」って百人一首の歌と関係あるの?

直接の“起源”と断言はできませんが、イメージの相性は抜群です。
百人一首の「奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の…」は、紅葉と鹿の声で秋の悲しさが決まる歌なので、札の読解に強い補助線になります。

「奥山に 紅葉踏みわけ…」の作者って猿丸大夫で確定?

一般には猿丸大夫として流通していますが、古典の作者表記は揺れがある扱いもあります。
記事では「百人一首で有名な歌」として紹介する書き方が安全です。

「紅葉に鹿」って、どの季節のイメージが一番近い?

体感としては 晩秋〜初冬の入口がいちばん近いです。
紅葉がピークに達して、鹿の声が響きやすい時期の“深い秋”として読むと気持ちよくハマります。

旧暦10月(神無月)って、今の何月ごろ?

年によってズレますが、感覚としては新暦の秋終盤〜初冬寄りの時期に当たることが多いです。
記事では「晩秋〜初冬の入口」と言い切ると読み手に伝わりやすいです。

10月札は“さびしさ”の札なの?

そう読めます。
紅葉は「うつろうもの(色が変わる・散る)」として詠まれ、鹿は妻恋いに鳴く=人恋しさを背負うので、組み合わせると晩秋のさびしさが完成します。

紅葉が晩秋に寄る理由って、和歌で説明できる?

できます。
古今和歌集の「ちはやぶる 神なび山の もみぢ葉に 思ひはかけじ うつろふものを」は、紅葉を“うつろうもの”として言い切り、終盤の気分(移ろい・別れ)に直結させています。

「ちはやぶる」ってどういう意味?

単語としての意味というより、和歌の作法として 次の語にかかる枕詞です。代表的には「神」にかかる形で覚えられています。

「ちはやぶる」と神無月って相性いいの?

記事の読み物としては相性がいいです。
神無月は“神”の気配が濃い月名なので、「ちはやぶる(神にかかる)」で始まる紅葉の名歌を添えると、言葉と10月花札の響きとしてきれいにつながります。

竜田川の「ちはやぶる 神代もきかず…」も紅葉の説明に使える?

使えます。
竜田川が紅葉で真っ赤に染まる驚きを詠む歌なので、「紅葉=秋が深まり切った色」という説明の補強になります。

花札の「紅葉(10月)」は桜や菊みたいな行事と結びつくの?

行事よりも、紅葉狩や和歌の伝統のほうが結びつきが強いタイプです。
「見る」「踏む」「声を聞く」といった体感の秋が中心です。

「紅葉に鹿」はどこの風景が元ネタなの?

特定の場所を断定するのは難しいです。
古典の中で「紅葉×鹿」が秋の定型として共有されていた、と見るのが自然です。

鹿が鳴くのはなぜ秋なの?

繁殖期に入り、牡鹿が牝鹿を求めて鳴く行動が増えるためです。
そこから「妻恋い」「恋煩い」の比喩に転じました。

鹿の鳴き声って、どんなふうに表現されるの?

古典では「鳴く鹿」「鹿の声」のように、声そのものが季節のスイッチになります。
「姿」より先に「声」で秋を確定させる表現が多いです。

「紅葉踏みわけ」ってどういう感じ?

紅葉が積もった山道を、足で踏み分けながら進む情景です。
視覚(赤い葉)と聴覚(鹿の声)、さらに足裏の感触まで入って、晩秋の没入感が強くなります。

「紅葉に鹿」って恋の札なの?

恋“も”背負える晩秋のイメージした札です。

「シカト」って花札の10月札から来たって本当?

そう言われる説が有名です。
「紅葉に鹿」の鹿がそっぽを向いている(=知らん顔)というイメージから説明されることがあります。

じゃあ「シカト」と鹿はどうつながるの?

「しかと(=無視)」が、花札10月札の鹿に結びつけて説明される、という形です。
語源には諸説あるが、花札由来説が有名という感覚です。

「しかとう(鹿十)」って言い方は本当にあるの?

語源説明の文脈で出てくる言い方です。

「紅葉に鹿」は“紅葉だけ”でも成り立つのに、なぜ鹿まで入れたの?

紅葉だけだと景色は完成するけど、感情はまだ決まりません。
鹿の声(妻恋い)を足すことで、晩秋の「人恋しさ」まで一枚で立ち上がるから、と説明できます。

「紅葉に鹿」の読み方は?(もみじにしか?)

一般には「もみじにしか」で通じます。

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この記事を書いた人

今はゲームシナリオを書いている者です。最近社内DXアプリ開発も楽しい。
花札がとても好き。アナログゲームを嗜む脚本家、小説家、人狼もマダミスも好き。

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