この記事の要点
本記事の結論は、花札5月札「菖蒲に八橋」は、旧暦5月の五月雨、田植え前後の水気、『伊勢物語』の八橋、端午の菖蒲が重なった「水辺の季節札」として読むと分かりやすい、というものです。
- 扱う札:花札の5月札「菖蒲に八橋(しょうぶにやつはし)」。水辺の花、橋、沢のような水景が描かれる札です。
- 基本の意味:5月札は、初夏・五月雨・田に水が入る時期の感覚と重ねると、「水の季節」を表す札として理解しやすいです。
- この記事の主張:4月札が「春の終わりと初夏の合図」なら、5月札はそこから一歩進み、初夏が湿気と水気を帯びて夏へ近づく札です。
- 旧暦と五月雨:和風月名は旧暦の季節感を含むため、現代の月感覚とはずれます。五月雨は旧暦5月ごろの長雨、つまり梅雨の雨として説明されます。
- 皐月と水の関係:皐月は早苗を植える月とされます。田に水を入れ、雨が降り、地面が水を抱えるため、5月札を水景として読む補助線になります。
- 八橋の由来:八橋は『伊勢物語』九段「東下り」に出る三河国の八橋と関わります。水が分かれる沢に橋を渡す構図が、旅の途中で足が止まる水辺の風景を立ち上げます。
- 菖蒲と杜若の問題:呼び名としては「菖蒲に八橋」で扱いつつ、図柄の背景には端午の菖蒲と、『伊勢物語』のかきつばた・八橋の両方を補助線として置きます。
- 明治資料の表記:明治時代の花札資料には「あやめ」「あやめに八ッ橋」といった表記が見られます。そのため、「あやめ」という呼び名が古くからあった可能性があります。
- 花合わせかるたとの関係:古い花合わせかるたでは、菖蒲と杜若が別の札として存在していた例があります。そこから、名は「あやめ/菖蒲」寄り、図柄は「杜若に八橋」寄りになった可能性を仮説として整理します。
- 端午の節句との関係:旧暦5月の高温多湿な時期には、菖蒲を薬草として用いたり、菖蒲湯・菖蒲酒で邪気を祓う習俗があります。ここから5月札を端午の季節感とも重ねて読めます。
- 俗称について:5月札は地域や文脈によって「ねぎ」と呼ばれることがあります。端午の菖蒲=葉菖蒲の見た目から生まれた俗称として読むと理解しやすいです。
- 資料上の注意点:図柄の直接の起源は断定せず、旧暦の季節感、和風月名、『伊勢物語』、端午の節句、花札の俗称など、資料で確認できる意味を土台にした自然な読みとして提示します。
サザノノザサでは、5月札「菖蒲に八橋」を、単に「菖蒲か杜若か」で分けるのではなく、五月雨、田に入る水、八橋の旅情、端午の菖蒲が重なった“水の風景札”として整理しています。
古典は強い。名前はややこしい。
花札の絵柄ってさ、
見た目で分かる札と
分からない札があるよな。
これは何に見える……
と言いたいところだが。
いや、ちょっと
分かるぜ?
あやめ。
……いや、
しょうぶ?
そうなるから、
やめといたんだが。
けれど、この「菖蒲」という名前からして、少しややこしい。
この記事の前提
花札は、12か月それぞれに花や草木が割り当てられ、
各月4枚ずつで季節を表す遊び札です。
5月札の「菖蒲に八橋」は、初夏が梅雨の気配を纏いながら“夏本番”へ寄っていく合図を、一枚の水辺の風景に圧縮した札です。
4月の札が「春の終わりと初夏の合図」なら、
5月はそこからもう一歩進んで、
初夏が“湿気と水気”を連れて、夏へ寄っていく札です。
旧暦の感覚だと、5月(皐月)はいまの6月ごろに寄りやすく、
季節の輪郭が「水」に傾きます。
花札5月「菖蒲に八橋」の意味は?水辺・五月雨・初夏の札として読む


まず、5月は
菖蒲に八橋だ
…便宜上な
便宜上?
あとで話すし、
任天堂や大石天狗堂は
「杜若」だ
※杜若(かきつばた)
なら、杜若だろ
はいはい
あとで話すからな
5月の構成要素
……で、
主な構成要素は
この2つ
杜若(図柄の読みとしての補助線)
水辺に立つ背の高い葉と、初夏の湿気を含んだ空気。
八橋
(やつはし)
水が分かれる沢に架かる橋。

皐月(旧暦5月)
五月雨の季節(梅雨の入口〜梅雨の雨)
水無月(旧暦6月)
田に水を引く月
「梅雨は水無月では?」と思われた人用の補足:旧暦のズレと「五月雨」(クリックすると開きます)

現代の感覚だと「梅雨=6月」なので、
「梅雨なら水無月(6月)じゃない?」と思う人も多いかもしれません。
ここで出てくる和風月名(皐月・水無月)は 旧暦(太陰太陽暦)の季節感でできています。
旧暦の月は、いまの季節感と だいたい1〜2か月ズレるのが前提です。

このズレを踏まえると、梅雨に当たる長雨は 旧暦では「5月ごろ」に置かれやすく、
その雨を指す言葉として 「五月雨(さみだれ)=旧暦5月の長雨(梅雨の雨)」が説明されています。
参考:ウェザーニュース「いくつ知っていますか?趣深い雨の言葉」 「暦生活:五月雨」
一方で水無月については、
国立国会図書館の暦解説でも 「田に水を引く月」=“水の月”という説明が整理されています。
参考:日本の暦「和風月名」
ここで大事なのは、梅雨そのものを“6月固定”で見るのではなく、旧暦の季節感で「五月雨」の側から読むこと。
その上で5月札を見ると、沢と八橋の水景がぐっと噛み合います。
皐月は「早苗を植える月」=水が入る月:だから5月札は水景になる(クリックすると開きます)

和風月名の説明では、皐月は 早苗(さなえ)を植える月とされます。
田に水を入れ、苗を植える。
空からは五月雨(梅雨の雨)が降り、地面は水を抱えはじめる。
この「上も下も水になる」感じが、皐月の空気です。
だから5月札の絵柄が、花だけではなく
沢(水のある場所)+橋(渡る構図)
なのは、季節の置き方として自然です。
なら、杜若だろ
……Botか何かか?
ブロックするぞ?
なら答え先に言えよ
元々は菖蒲に兜と杜若に八橋があった。けど、そこから枚数が絞られることになった。結果として、五月としては菖蒲の名が残って、絵柄としては杜若に八橋が残るという状態になった可能性が高そうだが、仮説だ。
……おう。
何も分からねぇ
後で話す
八橋とは?『伊勢物語』東下りに出てくる三河国の水辺
そもそも
八ツ橋ってなんだよ
京都かよ

京都の生八ツ橋:いらすとや様
伊勢物語だから
京都じゃないな?
ああ、伊勢なら
三重県だな
ーーま、
三河の国の話だから
愛知県だけどな。
余りにも
大人げがねぇ対応
※図柄の「直接の起源(これが元ネタ!)」は断定できない部分があるため、本記事では“資料で確認できる意味(象徴)”を土台に、自然な読みを提示します。
『伊勢物語』東下りの「かきつばた」折句と八橋

伊勢物語の東下りは
当時の人にとって
知られているものだった、
ーーそれは抑えておいて欲しい
東下りなら、
教科書で出てきたな。
折句で有名な奴
なら、
話は早いか
折句とは
折句とは
和歌や俳句などの各句の頭文字を繋げると、
別の意味を持つ言葉(物の名前や隠しメッセージ)になる日本古来の言葉遊び
日本折り句協会
聞くが
折句ってなんだ?
縦読み的な奴。
頭の文字を取ったら
メッセージが現れる言葉
だいたいこれと一緒です。
在原業平の「かきつばた」
ということで
東下りの
「折句」を見よう
『伊勢物語』九段「東下り」では、旅の一行が三河国の「八橋」に至り、 沢のほとりに美しく咲く花を見て、ある人がこう促します。
その流れで詠まれるのが、在原業平の折り句の歌です。

意味:「着慣れた衣のように長年慣れ親しんだ妻が都にいるからこそ、はるばる来た旅がしみじみ身にしみる」
各句の頭を拾うと
「か・き・つ・は・た」
=かきつばた、だな。
八橋の由来は「水が分かれる沢」と八つの橋
ちなみに、
これが読まれた場所が
「八橋」だ
三河の国八橋といふ所に至りぬ。
そこを八橋といひけるは、水行く河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける。
(中略)
その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。
啓倫館オンライン.
気付かなかったけど、
しれっと
かきつばたも咲いてるな
なぜ「菖蒲に八橋」と「杜若に八橋」の呼び名があるのか
…で、本題だ。
個人は菖蒲に八橋多め。大手メーカーは杜若に八橋多め。
呼び方を見てみたんだが、
大手メーカーは「杜若」寄り
口伝や個人は「アヤメ」寄りだ

……なら、
かきつばたで良くね?
東下りもそうだっただろ
あー……
それがな
明治時代の花札資料では「あやめ」「あやめに八橋」表記が見える
明治時代の花札の資料で
「あやめ」表記を
いくつか見つけたんだよ
資料名:『花かるた使用法』
著者:竹窓山人
出版社:上方屋
刊行:1886年/明治19年5月
NDL pid:861681
該当箇所:PDFの12ページ目あたり、「第四章 花合の点位」の表。「あやめに八ッ橋 十点」 とあります。
資料名:『骨牌使用法』
編者:前田喜兵衛
出版社:上方かるた商店
刊行:1887年/明治20年12月
NDL pid:861402
該当箇所:PDFの9ページ目あたり、「花かるたの組立」。「五月はあやめ」とあります。
……なら、
あやめか?
あー……
それがな
花合わせかるたでは「菖蒲」と「杜若」が別の札として存在していた
今の花札の前身の可能性もある
202枚の
寶永二年拝領花合せかるた(仮称)、
というものがあったらしいんだが…
杜若の札と
菖蒲の札が共存していた
「杜若に八つ橋 五十点」「杜若 二十点」
(中略)
「菖蒲に兜 三百点」、「菖蒲 百点」
(一)伝狩野芳崖筆の花合せかるた
……もう訳が
分からねぇな
ここからは
推測だがーー
仮説:「あやめ」の名が残り、図柄は「杜若に八橋」が残ったのかもしれない
5月
菖蒲湯、兜などの
ショウブ=「あやめ草」のイメージが強いため、
「あやめ」の言葉だけ残った。
図柄
伊勢物語の東下りで有名な図柄の
「杜若に八橋」が残った。
十二か月の花として選定するなら
5月は「あやめ」だ。
だがーー
あやめ草――
つまり、葉菖蒲って
クソ地味なんだよなぁ…
花札なのに
花がねぇってこと
そういうことだ。
絵柄だけで言えば、
杜若に八橋の方が
売れるだろ
だから、図柄は
「杜若に八橋」にした。
仮説だ、仮説。
まとめると、
名だけ「あやめ」
図柄は「杜若に八橋」の
「あやめに八橋」が爆誕
図柄を見て
「杜若」に直しているのが大手
口伝のまま「あやめ」を
使っているのが個人ってことか?
だいたいそう。
飽くまで仮説だ。
花札関係は口伝多くてな
情報は随時募集中。
……で、
葉菖蒲ってなんだ?
端午の節句と菖蒲湯:5月に菖蒲が重視された理由
葉菖蒲の説明なら
端午の節句の説明からか
…端午の節句って
子どもの日、だよな?
5月5日は子どもの日

子どもの日に
菖蒲を
浮かべたことあるか?
こどもの日(端午の節句)に、
お風呂に菖蒲の葉っぱや根っこを入れて入浴する、
菖蒲湯のイラストです。

菖蒲湯:いらすとや
あるけど、
ネギみたいなの
浮かべただけだぞ?
ネギ、か。
話が早いな
菖蒲が「ねぎ」って呼ばれるのはなぜ?(花札の俗称)
花札の菖蒲は
ネギと
呼ばれてるんだよ
花札の解説PDF『新しい花札入門』には、古い言い回しとして
「何もなければネギでも捨てろ(5月札をネギと呼んだらしい)」
というものがある。

見た目、
似てるか?
5月と聞いて
思い浮かべるのは
葉菖蒲の方だ

ああ、これなら
やっぱネギだよな
端午の節句は菖蒲と深い関係にある。(クリックすると開きます)
中国でも、端午の節句で菖蒲が使われる。
中国も日本も端午の節句があって、
中国側でも「菖蒲」が
使われてもいた。
中国では、端午の日に、菖蒲と艾の束を門戸にかけ、
菖蒲酒を飲み、菖蒲湯に入るという習俗がある
李真「中国における『端午』の菖蒲習俗の伝承について」
日本では、「尚武」と合わさって、5月=「菖蒲」のイメージがさらに強くなる
それに、
日本には尚武って
単語があってな

鎌倉以降の時代は、
この「尚武」と「菖蒲」が音が同じだから、
男の子のお祝いの日にされている。
「あやめ」はアヤメ科の花ではなく、菖蒲の古名「あやめ草」かもしれない
あやめ草
サトイモ科の多年草。菖蒲(しょうぶ)の古称
https://ouchidehaiku.com/contents/346364
ーーけど、
あやめに八橋だろ?
ショウブじゃなくね?
そうだ。
明治に記載されていた内容が
「あやめ」だから、
そこは揺るがないとしてーー
ショウブには
「あやめ草」という
古い名前がある。

けど、
5月を連想しやすいのは
尚武と似たショウブだろ?
推測ばかりで悪いが、
カキツバタにヤツハシと
ショウブにヤツハシってな
ーー花札で使う時に
読みにくくないか?
なんでだよ
「かきつ」とか略せよ
日本人だろ
かきつ派もいると
資料にあった。
ただ、
5月で採用するなら
ショウブの方だろうから
あやめ草がしっくりはくる
まあ、
「あやめ」が資料で
確定しているなら
「あやめ草」も
納得せざるを得ないのか…?
確定はしていない。
俺の資料だけでの仮説だ。
杜若記載の
最適な一次資料があれば
随時変更予定
まとめ:5月札「菖蒲に八橋」は、名前と図柄が少しずれた水辺の札
花札の5月札は、一般には「菖蒲に八橋」と呼ばれることが多い札です。
ただし、図柄だけを見ると、端午の節句に使う葉菖蒲そのものというより、『伊勢物語』九段「東下り」に出てくる「かきつばた」と八橋のイメージに近く見えます。
そのため本記事では、5月札を次のように整理しました。
- 季節としては、旧暦5月の五月雨・田植え前後の水気を帯びた「初夏の札」
- 図柄としては、『伊勢物語』の八橋とかきつばたを思わせる「水辺の札」
- 呼び名としては、明治時代の資料にも見える「あやめ」表記や、端午の菖蒲・あやめ草の記憶が重なった札
- 仮説としては、古い花合わせかるたにあった「菖蒲」と「杜若」の要素が、現在の5月札の中で重なった可能性がある
つまり「菖蒲に八橋」は、植物図鑑のように「これは菖蒲です」「これは杜若です」と一つに決めきる札ではありません。
5月という季節、端午の菖蒲、伊勢物語のかきつばた、八橋の水辺、そして旧暦の五月雨。それらが一枚の中に重なった、少しややこしくて、かなり面白い「水の風景札」として見るのが、いちばん自然だと思います。
よくある質問:花札5月「菖蒲に八橋」Q&A
- 花札の5月札はどんな季節の札?(意味)
-
4月が「春の終わりと初夏の合図」なら、5月はそこからもう一歩進んで、初夏が“水気(五月雨)”を帯びて夏へ寄っていく気配を表す札として読むと自然です。
- 梅雨なら水無月(6月)じゃないの?
-
和風月名は旧暦の季節感で、現代の暦と1〜2か月ズレます。旧暦の「五月雨(さみだれ)」は旧暦5月の長雨で、梅雨の雨として説明されます。
- 「菖蒲に八橋」は何が描かれてる?
-
水の流れが分かれる沢辺に、橋(八橋)と、水辺の花が描かれている――という水景の札として読むのが基本です。八橋の説明は伊勢物語でも「水が蜘蛛手のように分かれるから橋を八つ渡す」と語られます。
- 「菖蒲に八橋」なのに、杜若(かきつばた)って聞いたけど?
-
呼び名としては「菖蒲に八橋」が一般的ですが、札元(大石天狗堂)は「杜若に八つ橋」として説明し、水辺の花としての整合などを挙げています。
- 八橋(やつはし)って何?由来は?
-
『伊勢物語』九段「東下り」では、水が蜘蛛の脚のように八方へ分かれ、橋を八つ渡すので「八橋」と呼ぶ、と説明されています。
- 在原業平の「かきつばた」の歌(折り句)ってどれ?
-
『伊勢物語』の八橋段で詠まれる「からころも…」の和歌で、各句の頭を拾うと「か・き・つ・は・た」=かきつばたになる折り句として紹介されています。
- 端午の節句はなぜ菖蒲?菖蒲湯はどうして?
-
国立国会図書館の解説では、この時期は高温多湿で病が流行しやすかったため、菖蒲を薬草として用いたり、菖蒲湯・菖蒲酒で邪気を祓う習俗が定着した、と説明されています。
- 花札の5月札が「ねぎ」って呼ばれるのは本当?
-
解説PDF『新しい花札入門』に「何もなければネギでも捨てろ(5月札をネギと呼んだらしい)」と記載があります。
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(打つ→めくる→役→こいこい判断)を先に読むと迷いが減ります。


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