この記事の要点
本記事の結論は、花札4月札「藤に不如帰」は、藤による「春の終わり」と、不如帰の声による「初夏の到来」を重ねて、季節の境目を一枚に圧縮した札だ、というものです。
- 扱う札:花札の4月札「藤に不如帰(ふじにほととぎす)」。図柄には藤、不如帰、三日月のような背景要素が描かれる。
- 基本の意味:藤は晩春から初夏に咲く花で、春の終わりの気配を見せる。不如帰は初夏の到来を声で知らせる鳥として読める。
- 記事の主張:4月札は、春の花を見ながら、次の季節である初夏の声が近づいてくる感覚を描いた札である。
- 万葉集との関係:万葉集巻18・4042番歌には、藤の花が咲くのを見ると不如帰が鳴く季節が近いと感じる、という趣旨の歌がある。本記事では、この感覚を4月札の読み解きの中心に置いている。
- 見える季節と聞こえる季節:藤は目で見る「春の終わり」、不如帰は耳で聞く「初夏の合図」。この2つが重なることで、季節の切り替わりが一枚の図柄として伝わる。
- 三日月について:三日月は、有明の月や古典和歌に見られる「ほととぎすの声の余韻」と重ねて読むことができる。ただし、背景は意匠の変化として後から加わった可能性もあり、断定は避ける。
- 2月札との対比:2月「梅に鶯」は春の始まりを告げる札、4月「藤に不如帰」は初夏の近さを告げる札として対比できる。どちらも、鳥の声が季節の境目を動かす役割を持つ。
- サザノノザサによる整理:本記事では、4月札を「春の花を見て、初夏の声が近いと感じる札」として整理し、藤・不如帰・月を季節の移り変わりを伝える記号として読んでいる。
- 資料上の注意点:図柄の直接の起源は断定せず、万葉集・古典和歌・季語・花札図像の変化など、資料で確認できる意味を土台にした自然な読みとして提示する。
本記事では、サザノノザサが参照資料をもとに、4月札「藤に不如帰」を「春の終わり」と「初夏の声」が重なる札として整理しています。独自の読み解きは、藤を“見える季節の終わり”、不如帰を“聞こえる次の季節”としてとらえ、万葉集4042番歌の感覚と花札の図柄をつなげて読む点にあります。
見えている。だが正式名称まではまだ遠い。
これは?
鳥に植物。
……
なら言いますけど、
これ初見で分かる奴います?
仲間を募るな。
4月札の藤は、紫の花房と鳥の姿が目印。花札では、この鳥を「不如帰」と呼びます。
この記事の前提
花札は、12か月それぞれに花や草木が割り当てられ、
各月4枚ずつで季節を表す遊び札です。
4月札の「藤に不如帰」は、春が終わって夏へ切り替わる“境目”を一枚に圧縮した札です。
※図柄の「直接の起源」は断定できない部分があるため、本記事では 資料で確認できる意味を土台に、自然な読みを提示します。
4月の札は「春の終わりと初夏の合図」を一枚に圧縮している

4月札の核は、だいたい次の2つ(+飾り)です。
4月は
藤に不如帰だ

色が
ぜんっぜん違うだろ
昔は
染料の問題もあるから
その辺りに口出すなよ…
花札の色については、ここで確認できます。

不如帰の色、黒なのに茶色っぽいのはなぜ?
…不如帰って
黒色だよな

いらすとやのほととぎす
オスは黒、
メスは茶色っぽかったぞ
ホトトギス:特徴的な鳴き声|野鳥写真図鑑|野鳥写真図鑑|キヤノンバードブランチプロジェクト
…つまり、
メスなのか?
断言するだけの史料がないから、
何も言いません。以上
4月の構成要素
4月札の核は、だいたい次の3点です。
……で、
主な構成要素は
この3つ
藤に不如帰を読むポイント
藤
晩春〜初夏に咲き、春の賑わいがほどけていく
“春の終わりの気配”を見せる花。
不如帰 ほととぎす
初夏の初音で季節の到来を告げ、
“夏の始まり”というスイッチを入れる鳥。

三日月
有明の月のように、声の余韻と季節の境目を空に残すための背景。
…突然の、三日月
初めからいただろ

オレンジの月はさ、
ひっかけ問題だろ
……確かに、
なんで黄色じゃないのか
色の話するなと
言ったやつが何回言っている
黄色はこの時代にあるから
言及していいんだよ
※図柄の「直接の起源(これが元ネタ!)」は断定できない部分があるため、本記事では“資料で確認できる意味(象徴)”を土台に、自然な読みを提示します。
3月(桜)から4月(藤)へと変わる詩
花札の
3月から4月にかけて…の
花の感覚として良いと思ったから
この資料をはさむ。

地主の桜より、安井の藤に移る花見幕に、春時鳥聞くおかしさ
浮世草子・好色万金丹(1694)二 花見幕(はなみまく)とは? 意味や使い方 - コトバンク
当世早流雛形 2巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション でも確認できます。
冬なのに
蝉が鳴いてるって
感覚の句だな
花見幕も使っていた時点で、
藤も愛でられる対象の花であったことが
うかがえる。
花見幕って?となった人は「桜に幕」から
の意味を図柄から読む-2.webp)
とはいえ、
これだけだと
藤が「春から夏」の
証明にはならなくないか?
おー、パスが上手いな
藤の花は春の終わり、ホトトギスの声は夏の始まり
万葉集に
丁度いい詩が
あるんだ

藤が波の様に
咲いているのを見ると、
ほととぎすが
鳴く時期が来たんだなあ!
…か?
| 現代語訳(趣旨): 藤の花が波のように咲きわたるのを見ると、ほととぎすが鳴く季節が近づいたと感じる。 |
「藤(目で見る春の終わり)」から「ほととぎす(耳で聞く初夏の合図)」へ、季節が切り替わる瞬間を掴んでる歌です。
そうだ。
ちなみに
藤とほととぎすの句は
他にもいろいろある。
わがやどの池の藤波さきにけり
山郭公いつかきなかむ
『古今和歌集』の巻三「夏」 夏の歌 「わがやどの 池の藤波(ふじなみ)」 古今和歌集 読人しらず - M&Cメディア・アンド・コミュニケーション
ほととぎす鳴く羽触にも散りにけり
盛り過ぐらし藤波の花歌詳細 | 万葉百科 奈良県立万葉文化館 大伴家持の歌:季節欄 夏
藤波の散らまく惜しみ霍公鳥
今城の岡を鳴きて越ゆなり
たのしい万葉集(1944): 藤波の散らまく惜しみ霍公鳥
季節の判断し方は、聴覚→視覚
ここで
分かることは?
な、夏が来たんだな…?
そう、
季節の始まりは音、
中ごろや終わりは
目で判断している
ことだな。

い、言ってねえ…
虫や鳥は環境変わる前に
動く。
だから、
先に聞くのは「声」になるのは
当たり前だよな!
俺の気付きを
いとも簡単に。
そうだ、
コイツ賢いんだった…
落ち込む所じゃねぇからな
季節の終わり、季節の中頃、季節の始まりなども大切にしていた
今は春なら「春」
夏なら「夏」ってだけだけど
昔の人は終わりも始まりも
分かっていたんだな!
四季ってより、
二十四節が
身近だったんだろうな
資料また漁っておくけど
俺の興味が
そこにないから後回し
藤は「春の終わり〜初夏」に咲く花

春=桜ぐらいに
藤が定着しているせいで
藤の季節を明言する句が、
上手く見つからない。
源氏物語から藤の季節を読む
…って、ことで
『源氏物語』
第三十三帖
「藤裏葉」から引用した。
春の花、いづれとなく、皆開け出づる色ごとに、
目おどろかぬはなきを、心短くうち捨てて散りぬるが、恨めしうおぼゆるころほひ、
この花のひとり立ち後れて、夏に咲きかかるほどなむ、
あやしう心にくくあはれにおぼえはべる。
色もはた、なつかしきゆかりにしつべし
『源氏物語』第三十三帖「藤裏葉」 源氏物語 33帖 藤裏葉:あらすじ・目次・原文対訳 - 古典の改め
現代語訳:
春の花は、どれも咲くたびに目を楽しませてくれますが、
すぐに散ってしまうのが惜しまれるものです。
そんな頃に、
この藤だけはひとり遅れて、夏にかかる頃まで咲いている。
そこが、なんとも奥ゆかしく、しみじみと心に残ります。
その藤の紫の色もまた、あなたにとって、懐かしく慕わしい人との縁を思わせる色となるでしょう。
「春の花は大体皆一緒に咲いて、
すぐ散るけど、この花は遅れて咲いて
夏にかかるぐらいまで咲いている。
その色も懐かしい人を思わせる色だし」?
…お?匂わせマウントか?
脱線はするが、直訳すれば
「アイツと結婚しちゃえよ」と
後押ししている内容だ
…なんでそうなる?
源氏物語を読めば分かるが
本題はそこじゃない。
この花――
つまり、藤の花は
春から夏にかけて、
と書いてある。
二季草(にきぐさ)と呼ばれる藤
それと、
藤は二季草と
呼ばれるんだよ
ふたき‐ぐさ【二季草】
〘 名詞 〙 植物「ふじ(藤)」の異名。〔蔵玉集(室町)〕
二季草(ふたきぐさ)とは? 意味や使い方 - コトバンク
春の終りから夏にかけて二つの季節を咲き続けることから、
二季草(ふたきぐさ)の別名も持っています。
コラム「古典に咲く花」 第8回「藤」 | News | THE FLOWER JOURNAL
ここまでくると
春から夏にかけての
証明になるな
ちなみに、
今も大体4月から5月が見頃だな
藤の種類ごとに、4月中旬〜5月中旬あたりが見頃
あしかがフラワーパークの案内
春の賑わいが少し落ち着いたところで、季節の空気を濃くしていく――
4月札の藤は、そういう立ち位置が似合います。
不如帰(ほととぎす)は「初夏の到来を知らせる声」

きごさいというサイトでも
ほととぎすは
「夏の季語:として
特集されている
初夏五月に南方から渡ってきて日本に夏を告げる鳥。
時鳥(ほととぎす)三夏 – 季語と歳時記
夏とほととぎすが
一緒に載っている詩も
乗せておく。

夏の夜の ふすかとすれば 郭公
なくひとこゑに あくるしののめ
古今和歌集 夏 156 古今和歌集/巻三 - Wikisource
郭公も
ほととぎすなのか?
ほととぎすだ。
ほととぎすは
別名多すぎるよな
初時鳥、山時鳥、名乗る時鳥、待つ時鳥、田長鳥、沓手鳥、妹背鳥、卯月鳥、杜鵑、杜宇杜魂、子規、不如帰
時鳥(ほととぎす)三夏 – 季語と歳時記
なぜ「ほととぎすが鳴かぬなら?」ほととぎすは何の象徴だった?
「ほととぎすが鳴く」は、ただの鳴き声ではなく、
季節が動く合図として待たれてきた出来事でした。
だからこそ「鳴かぬなら?」が、願いが叶わない状況の比喩として成立します。
そのイメージが分かりやすいのが、
「鳴かぬなら〜ほととぎす」という三英傑(信長・秀吉・家康)の性格たとえ話です。
鳴かぬなら~という
三英傑のたとえ話がある

何を
意味しているんだ?
季節を変えたい、という
叶わない願いに直面したとき
英雄ならどうするか、を例えた話だ。
信長は「殺してしまえ」
秀吉は「鳴かせてみせよう」
家康は「鳴くまで待とう」
と、同じ状況への反応の違いで人物像を描きます。
(※史実として本人たちが実際に言ったと確定できるものではなく、後世の逸話として知られるタイプのネタです)
だからこそ「鳴かない」をどう扱うか(動かす/待つ/排除する)で、
性格の違いが短い言葉にまとまりやすかったのでしょう。
何で
ほととぎすが
選ばれたんだ?
ほととぎすはな、
「鳴くことを待たれる鳥」で
有名だったからだ。
藤に不如帰の三日月の意味は?有明の月とデザインの変遷から読む
ほととぎすの声の為だけに
夜を明かした説明や句まである。
特にホトトギスの第一声(初音)を聴くのは非常に典雅なこととされました。
そこで山の鳥の中で朝一番に鳴くといわれるホトトギスの声をなんとか聴くために、
夜を明かして待つこともよく行われていたのです。
ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞのこれる | 小倉山荘(ブランドサイト) | 京都せんべい おかき専門店 長岡京 小倉山荘

ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞのこれる | 小倉山荘(ブランドサイト) | 京都せんべい おかき専門店 長岡京 小倉山荘
ほととぎすに必死だろ
一大イベントだし、
楽しんだもの勝ちだろ。
つまり、
ほととぎすは、
当時は超人気アイドルだった、と
その感覚が近いな
来日アイドルを待っている
ファンの感覚だ
背景は最初から三日月だったわけではない(クリックすると開きます)
背景は最初から三日月だったわけではない
藤にホトトギスの札は、最初から背景が固定されていたわけではなく、
「背景なし → 赤い雲 → 赤い三日月」
のように、意匠が変化してきた、と語られることがあります。
参考:日本かるた文化館(三)図像から古歌を廃した関東花札
地域・系統によっては満月の例もあり、背景の追加は「象徴」だけでなく、余白の調整や見分けやすさにも関わる“意匠の発展”として読むと安全です。
春告げ鳥の鶯と夏を告げるほととぎす
この2枚は、どちらも「花+鳥」
梅に鶯は「春のはじまり」を告げ、藤に不如帰は「夏の始まり」を告げる。
季節の境目を、"声”が動かしていく対比になっています。
2月と4月の札を見ると、
分かりやすく
「季節の始まりの音」を
表しているんだな
季節は、
全員共通で楽しめる
イベントだしな
2月札「梅に鶯」は、鶯が“春告げ鳥”

まとめ
4月札「藤に不如帰」は、ただ「藤の花と鳥」が描かれた札ではありません。
春の花が少しずつ終わりに向かうころ、藤の花が咲き、そこへ初夏を告げる不如帰の声が重なってくる。
つまりこの札は、
春が終わって、夏が近づいてくる一瞬
を切り取った札として読むことができます。
藤に不如帰は
春の終わりの札でありながら、
夏の音がする札だ。
…絵なのに、
夏が聞こえる札って
変な感じだな
季節のグラデーションすら
落とし込む、
それが花札の魅力だからな
Q&A
- 藤に不如帰の読み方は?
-
「ふじにほととぎす」です。万葉集でもこの組み合わせが詠まれています。
- 藤にほととぎす(藤に不如帰)の意味は?
-
藤(春の終わりの花)を見て、ほととぎす(初夏を告げる声)の季節が近いと感じる――季節の切り替わりを表した組み合わせ、と読むのが自然です。
- 万葉集のどの歌が根拠?
-
巻18・4042番歌(田辺史福麻呂)です。「藤波の咲き行く見れば…」の一首として、本文・読み下し・現代語訳が整理されています。
- 藤に不如帰の三日月の意味は?
-
有明の月(夜明けに残る月)の情景を重ねた説明がよく合います。また、背景自体が後から加わった意匠の変化として語られることもあります。
- 「鳴かぬなら〜ほととぎす」は本当に三英傑の言葉?
-
史実として確認できる一次史料がある形ではなく、後世の逸話(性格たとえ話)として扱うのが安全です。
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