ピンキリの「キリ」とは?語源は天正かるたの12番札?「岐利(蛮語)」までやさしく解説

「ピンキリ」って、要するに“幅がある”って意味。
ここまでは、だいたい通じます。

じゃあ、「ピン」って何?「キリ」って何?
ここで一気に曖昧になります。

答えの手がかりは、
花札の前段階にある天正かるた(てんしょう)
当時の「札の呼び名」が、ピンキリの背景にいます。

この記事は、まずピンキリ全体をざっと確認。

つづいて「キリ」を中心に、
「天正かるたの12番札」→「岐利(蛮語)」→「語源候補」
の順でスッキリ整理します。

目次

そもそも、ピンキリってどういう意味?

ピンキリは「ピンからキリまで」の略で、今の会話だとだいたい
「値段も品質も、上から下までいろいろある(差が大きい)」
みたいな意味で使われます。
参考:Domani

もともとのニュアンスはもっと素直に、
「最初から最後まで」「端から端まで(=全範囲)」
という感じです。

ピンキリの「キリ」は、まず“天正かるたの12番札”として出てくる

先に一番たいせつな結論だけ言うと、辞書・解説でよく出る整理はこれです。

天正かるたでの、
1番目がピン
12番目の札がキリ

つまり「ピンからキリまで」=「最初から最後まで」
この形が、慣用句として残った、という説明がまず芯になります。

ピンとキリ、どちらが上?

ピンの方が上です。

ピン
ポルトガル語 pinta(点)
→ 天正かるたで「1」の札を「ピン」と呼んだ

から

キリ
天正かるたで「12」の札を
「キリ」と呼んだ(=端っこ/最後の札)

まで

なので(現代の使い方としては)
「どっちが上?」で言うと ピンが上、キリが下 です。

なので「どっちが上?」で言うと ピンが上、キリが下です。

天正かるたって何?

「ピン」や「キリ」が出てくるのが、天正(てんしょう)かるたです。
これは、ざっくり言うと
昔の西洋のカードが日本に入って、日本向けに理解・変形していったもの

説明としてよく出る基本形はこんな感じです。

・絵柄の系統(スート)が4種類ある
・それぞれに 1〜12 の札がある
・だから合計 48枚(4×12)

花札と違ってルーツは「トランプっぽいカード」に近いタイプ、と思うとイメージしやすいです。

※ここは“語源の舞台”として必要最低限だけ押さえています。花札のルールは知らなくて大丈夫です。

参考:天正かるた – Wikipedia

「ピン」は何?(簡単に)

天正かるたの説明では、1の札を「ピン」と呼んだ、という整理が定番です。

語源はよく、ポルトガル語の pinta(点)から来た、と説明されます。
「点(サイコロの目みたいな点)=1」という感覚で、1の札をピン、と言ったと言われています。

「岐利(きり)/その名目また蛮語」が出てくる

「キリ」のところで面白いのが、
江戸時代の百科事典系の説明に、はっきりこう出てくることです。

十二武将岐利其名目亦蠻語矣
参考:江戸カルタメイン研究室10
『歓遊桑話』の本文中で、正徳二年(1712)序『和漢三才図絵』からの文章抜粋

・12番の札は武将に似ている
・名前は 岐利(きり)
・しかも 「その名目また蛮語」(=外来語扱い)

この「岐利」という漢字は、意味というより 音(きり)を写す当て字として出てきます。
そして「蛮語」と書いて、外国語っぽい呼び名だとも言っています。

その「岐利(キリ)」って何語の何?

ここから先は、資料でも説明が割れやすいゾーンです。
だからこそ、この記事では 断定せず「候補を並べる」方針で行きます。

ポイントはこれです。

・「キリ」という札名は出てくる(岐利/蛮語の記述もある)
・でも「元の言語が何か」「元の単語が何か」は、決め手が不足しがち

そのうえで、よく挙がる候補は主に2つ+補足1つです。

候補A:cruz(十字架)説(有名。ただし、10の語源の為、入れ違い理由を探る必要有)

「キリはポルトガル語の cruz(十字架)が元」
という説明は、辞典解説でよく見かけます。

cruz(十字架)説は、
「十字(+)→ 十(10)っぽい」

天正かるただと、
キリ=12番の札 です。

cruz説は“有名な説明”ではあるのですが、
この10の札がいつ12の札になったかを考える必要があります。

そして、現在調べた中ではそのような資料は見つかりませんでした。

参考:ピンからキリまで | ルーツでなるほど慣用句辞典 | 情報・知識&オピニオン imidas – イミダス 「ピンからキリまで」のピンとキリの意味について知りたい | レファレンス協同データベース

候補B:日本語の「切り/限り(区切り・ここまで)」説

「キリ」は果てや限り、区切りを意味する
きり(切り、限り)」を語源とする説が有力とされる。
参考:ピンからキリまで – ウィクショナリー日本語版

もう一つの有力候補がこれです。

キリ」を日本語の
「切り/限り(区切り・終点)」
として捉える説。

この見方は、天正かるたの並びを見ながらだと分かりやすいです。

各スートが1〜12で構成されるので、
12「端」「終わり側」に当たります。
※スート…♡♢♣♠などのマークのこと

そこを「切り(=ここまで)」と呼ぶのは、感覚としても自然です。

呼び名の対応(10・11が“日本側の呼び名”として扱われている点が効く)

さらに、この並びで考えると呼び名の対応も整理しやすくなります。

・10=僧形 → 「十(ジフ)」
・11=騎馬 → 「馬(ムマ)」
12=武将っぽい → 「切(キリ)」
参考:江戸カルタメイン研究室10 『和漢三才図会』 『白河燕談』

「ジフ」は、
謎の外来語じゃなくて、十(じゅう)を昔の書き方(歴史的仮名遣い)で書いた形です。
昔は「十」の字音が 「じふ」(カタカナだと「ジフ」)と書かれることがあり、
そこから発音が変化して、いま一般的な 「じゅう」 になっていった、という整理です。

国立国語研究所の解説でも
「歴史的仮名遣いでは『じふ』と書く」「もともと『十』の字音は『ジフ』だった」と説明されています。

「ムマ」
「むま」=(いまの)うまです。
古い日本語では「馬」を むま と書く(=歴史的仮名遣いでそう表記する)例があり、辞書類でも「うま【馬】(歴史的仮名遣い:むま)」の形で整理されています。
『万葉集』などの古い資料でも馬の表記はいろいろあります。

つまり「12キリ」も、外来の札を日本側で説明・理解する過程で、
音や呼び名だけ日本語的に取り込まれた可能性が十分あります。

外来由来の体系を解説する途中で、
呼称の一部だけが日本語寄りに置き換わること自体は、そこまで不自然ではありません。

ちなみに仮説で「武将一般を、単独で『切り/斬り』と呼ぶ」と考えて、探してみたのですが、
今の所、私は確かな一次資料としては見つけられていません。

参考:(六)「ソウタ」「ウマ」「キリ」の図像 – 日本かるた文化館

※「蛮語」と書いてあるのに日本語っぽい説があるのは変じゃない?

→ たしかに変です。
だからこそ、「伝聞」「写本」「引用」を経る過程で、
伝言ゲームのように情報が混線し、結果として“変な形”になった可能性があります。

実際、花札でも「梅に鶯」と呼びながら
絵柄がウグイスではなくメジロに見える例があるように、

「正確に伝わらないまま定着する」こと自体は
十分起こり得ます。

候補C:Kyrie(キリエ)=「主よ」→「主(あるじ)」→「君主」へ“意味が寄っていった”説

「キリ」という音に寄せたいなら、候補としてかなり筋が良いのが Kyrie(キリエ) です。

Kyrie はギリシャ語で、kyrios(主・支配者・主人) の呼びかけ形(=「主よ」)にあたります。

また、典礼句 Kyrie eleison(主よ、憐れみたまえ) として広く用いられてきました。

ここで注目したい点は2つです。

音が寄る:Kyrie(キリエ)→(途中を取って)キリ という省略は、日本語の省略感覚として自然 意味が“王札”に寄りうる:Kyrie=「主よ」→「主(あるじ)」→「主君」→「君主」 というふうに、言葉の意味の射程が “支配者側” へ寄っていく余地がある

しかも、キリスト教語が当時の日本語資料に取り込まれていた痕跡として、たとえば『南蛮広記』系の資料には

「きりゑれいそん(Kyrie eleison)」 のような形で音写が見えます。

(=「キリ」を含む形が、実際に当時書かれている)

一方で、図像研究側の整理では、南蛮カルタで座っている人物(いわゆる「キリ」札の人物)は

元は“君主(王)”を表していた が、日本側では天正カルタ/うんすんカルタの段階で

武人として理解されていく、というねじれが指摘されています。

ここに「キリ/コシ」などの呼称が絡む、とも説明されています。

(=“君主だったものが武人として読まれていく”というズレ自体は、研究上も観察されています)

補足候補:レイ(rei)/キリ/コシが併存した可能性

天正かるたや、その周辺のカルタの説明では、
王札に関して レイ(rei)という呼び方が見える整理もあります。

そして同じ層に、キリ、さらに コシ(腰)のような呼称が出ることがあります。

ここから言えるのは、一直線に
「王(キミ)→キリに転化した!」
みたいな話を立てるよりも、

「地域や伝承で、王札の呼び名が入れ替わった/併存した」

と考える方が自然、ということです。

補足:「外国で12をキリと言ったか?」は、たぶん違う

主要候補の数詞はこうで、音が全く寄りません。

  • ポルトガル語 12 = doze(ドーゼ)
  • スペイン語 12 = doce(ドセ)
  • ラテン語 12 = duodecim(ドゥオデキム)

だから「12をキリと呼ぶ外国語があって、それが札名になった」線はかなり薄いです。
(※”どこかの方言・スラング・交易混成語”の可能性は理屈では残りますが、現状の根拠が弱い&今の所は資料が見つかりません。)

ここまでのまとめ

・「ピンキリ」のキリは、天正かるたの 12番札を指す呼び名として説明される
・江戸時代の資料説明では 12番札を 岐利(きり)と書き、「蛮語(外来語)」扱いにする
・語源の中身は諸説で、cruz(十字架)説は有名だが“12番札”と噛み合いにくい
切り/限り(区切り)説は“12=端”と相性が良い

よくある疑問

ピンとキリ、どっちが上なの?

語源の説明だと「ピン=1」「キリ=12」で、単純に“最初と最後”の端の話です。
今の会話では「ピン=上、キリ=下」みたいに使われることが多い、というだけ。

「キリがいい」のキリと同じ?

「キリがいい」は普通、区切り(切り)がいいのキリです。
ピンキリのキリは「札名」から来た説明が強いので、ルートは別に見たほうが混乱しません。
(ただし、だからこそ「切り/限り説」が候補に上がりやすい、という面白さがあります)

何故この記事を書いたの? 何故、花札の記事の中にあるの?

「桐に鳳凰」の記事を書くにあたって、ベースとして必要な情報だったからです。

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この記事を書いた人

今はゲームシナリオを書いている者です。最近社内DXアプリ開発も楽しい。
花札がとても好き。アナログゲームを嗜む脚本家、小説家、人狼もマダミスも好き。

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