薮井社と仇咲松実|追っていたはずの男に、待たれていた

薮井社 全身立ち絵
CASE FILE / FUTARISOUSA

薮井社と
仇咲松実

追っていたはずの男に、
待たれていた。

探偵と、記者くん 罠を仕掛けた探偵 食いついた記者

本作は、「著:平野累次/冒険企画局」が権利を有する『バディサスペンスTRPG フタリソウサ』の同世界観を、二次創作的に共有するキャラクター設定として扱っています。

仇咲松実 全身立ち絵
scroll
TRAP

「待っていたよ、
記者くん」

手首が動かなかった。

最初に気づいたのは、それだった。

次に、椅子の硬さ。
その次に、目の前で笑っている男。

薮井社。

追っていたはずの獲物が、こちらを見ていた。

「待っていたよ、記者くん」

声は穏やかだった。

だから、余計に気持ちが悪かった。

仇咲松実は、間違えていたことを知った。

追っていたのは、自分の方だと思っていた。

若くして名の知られた医師。
顔も良い。
人当たりも良い。
のらりくらりとしていて、黒い噂を掴ませない男。

それが急に、いくつも薄暗い噂を漏らし始めた。

裏金。
女性関係。
表に出せないつながり。

そういう噂を聞いた時、松実は少し笑った。

お前も、俺みたいに被害者になればいい。

そう思った。

それなのに。

捕まっていたのは、松実の方だった。

薮井社は、いつものように笑っていた。

怒っていない。
脅しているようにも見えない。

ただ、逃げ道のない場所に松実を座らせてから、当たり前みたいに言った。

「探偵になって」

意味が分からなかった。

THE DETECTIVE / THE REPORTER

この二人は、
こうして組まされた

YABUI YASHIRO

薮井 社

待っていた探偵
薮井社 全身

名探偵の血を引く、若き医師兼探偵。

声を荒げない。怒鳴らない。強く命令することも少ない。

ただ、相手が逃げられない場所に立ったことを確認してから、穏やかに笑う。

仇咲松実を「記者くん」と呼び、探偵役に据えた張本人。

松実を偶然選んだわけではない。

けれど、その理由を本人に渡すつもりはない。

ADASAKI MATSUMI

仇咲 松実

捕まった記者くん
仇咲松実 全身

ゴシップ記者。元ライトノベル作家志望者。

夢を壊され、ライトノベルを書けなくなった。それでも、文章だけは手放せなかった。

今は人の弱みを追い、不幸を記事にしている。

自分は被害者だった。だから少しくらい、他人の傷を覗いても許される。

そんな言い訳をしながら、深いところまで潜ってしまった人。

それでも、薮井が何を考えているのか。納得できないままではいられない。

BUDDY?

探偵と、記者くん

薮井社

  • 真相を見抜く
  • 松実を表に立たせる
  • 「記者くん」と呼ぶ
  • 最初から待っていた
?

仇咲松実

  • 真相に怒る
  • 薮井を利用すると言った
  • 嫉妬している
  • 納得できないままではいられない

探偵と助手。
あるいは、探偵と記者くん。

その関係が対等なのか。
最初から罠なのか。

まだ、誰にも分からない。

TRPG DATA

TRPG上の立ち位置

薮井社

探偵 運命の血統 名探偵の祖先(真)

薮井社は、名探偵の血を引いている。

事件を見る目は鋭い。人の嘘を見抜く。現場の違和感を拾う。死体すら、最後に残された文章のように読む。

ただし、彼は真相を見つけるだけの探偵ではない。

真相を、誰に見せるか。どの順番で見せるか。それによって、人がどう変わるか。

そこまで見ている。

だから、松実を隣に置いた。

仇咲松実

助手 正義の人 納得したい

松実が事件に首を突っ込むのは、正義のためだけではない。

自分の中に、納得が欲しいからだ。

なぜ人は、誰かの大事なものを踏みにじれるのか。なぜ努力した先に、救いではなく破壊があるのか。

松実の正義は、綺麗ではない。

嫉妬もする。人の不幸を追う。相手が落ちればいいと思うこともある。

それでも、納得できないことを納得できないまま終わらせることができない。

FACE LOG

表情で見る、
探偵と記者くん

表情差分は、図鑑ではなく掛け合いの予告として。
この顔で笑い、この顔で噛みつき、この顔で返り討ちに遭う。

薮井社

笑顔で人を逃がさない探偵
薮井社 笑顔

笑顔

逃がさない時の顔。

薮井社 真顔

真顔

事実だけを見る顔。

薮井社 暗め

暗め

呼び名を飲み込む顔。

仇咲松実

噛みついて、返り討ちに遭う記者くん
仇咲松実 通常

通常

疑う顔。

仇咲松実 口開き

口開き

すぐ噛みつく顔。

仇咲松実 少しだけ笑顔

少し笑顔

平気なふり。

仇咲松実 笑顔

笑顔

薮井を煽る顔。

仇咲松実 暗め

暗め

書けない顔。

仇咲松実 怒る顔

怒る顔

嫉妬する顔。

OLD NOTE

松実が、
書けなくなるまで

仇咲松実は、元ライトノベル作家志望者だった。

ブラック企業で怒鳴られても、投稿サイトの中では少しだけ「凄い人間」でいられた。

けれど、アニメ化が決まったあと、大事にしていたものは売るための都合に合わせられていく。

それから、ライトノベルは書けなくなった。

でも、文字を書くことだけはやめられなかった。

だから今は、ゴシップ記者をしている。

詳しく読む:松実が文字にしがみつくまで

仇咲松実は、自分のことを何もない人間だと思っていた。

会社では怒鳴られた。
馬鹿にされた。
使えないと言われた。

でも、ライトノベル投稿サイトの中では違った。

面白いと言ってくれる人がいた。
続きを待っていると言ってくれる人がいた。

現実では何者でもなくても、あの場所でだけは、少しだけ凄い人間でいられた。

だから書いた。

いつか見返す。
いつか一発当てる。
いつか、この現実をひっくり返す。

そして、本当にアニメ化が決まった。

夢が叶うと思った。

けれど、夢は叶った瞬間に壊れた。

キャラクターは変えられた。
大事にしていたものは、売るための都合に合わせられた。

自分の努力の結晶が、誰かの踏み台になっていく。

アニメは売れなかった。

松実は、少しだけ安心してしまった。

あれが正解にされなくてよかった。

そう思ってしまった自分が、さらに嫌だった。

それから、ライトノベルが書けなくなった。

でも、文字を書くことだけはやめられなかった。

だからゴシップ記者になった。

人の弱みを書く場所でも、
自分の言葉が、自分の言葉のまま載るなら。

まだ、物書きの端くれでいられる気がした。

俺は被害者だ。
だから、他人の弱みを追っても仕方ない。

そう思うことにした。

そう思わないと、書けなかった。

UNSENT WORDS

社は、最初から
松実を知っていた

薮井社は、仇咲松実を偶然見つけたわけではない。

もっと前から、彼の文章を知っていた。

海外で暮らしていた頃、こっそり読んでいた日本のライトノベル投稿サイト。

そこで、長くて癖の強い、妙に人間くさい推理ライトノベルを見つけた。

更新は止まった。

けれど、ゴシップ記事の中に同じペンネームを見つけた時、社はすぐに分かった。

彼だ。
まだ、文章を手放せていない。
詳しく読む:僕が「記者くん」と呼ぶ理由

海外で暮らしていた頃、僕には選べる娯楽が少なかった。

ゲームはできない。動画も制限が多すぎてつまらない。
けれど、ネットだけはこっそり見られた。

だから僕は、日本のライトノベル投稿サイトを読んでいた。

最初は、少しくだらないと思った。

都合のいい力。承認欲求。見返したい、愛されたい、勝ちたいという欲望。

低俗だな、と思った。

けれど、欲望が露骨だからこそ、人間に近かった。

その中に、妙に目につくライトノベルがあった。

長くて、癖が強い。
推理ものの形をしているのに、文章の端々から書き手の感情がはみ出している。

怒っている。拗ねている。嫉妬している。見返したがっている。
それなのに、最後には少しだけ冷静になる。

誰かを嫌っているようで、人間そのものは見捨てていない。

僕は、それを読み続けた。

けれど、アニメ化のあと、更新は止まった。

作者らしきSNSには、「読者が読んでくれてうれしい」という当たり障りのない言葉が増えていた。

その言葉が増えるほど、本文は戻ってこなかった。

僕は、何かが奪われたのだと思った。

大事な部分を変えられたのか。
自分のものだったはずの物語を、別の誰かの都合に合わせられたのか。

それから時間が経った。

ある日、ゴシップ記事の中に、同じペンネームを見つけた。

最初は偶然だと思った。

でも、読めば分かった。

彼だ。

ライトノベルではない。
人の弱みを扱う記事だった。

それでも、熱が残っていた。

怒り方。皮肉の入れ方。
人間の嫌なところを書きながら、どこかでその人間味を見てしまう癖。

彼だった。

ライトノベルを書くことはやめた。
けれど、文章を手放すことはできなかった人。

僕は、そこで少しだけ笑った。

生きている。
文章を書いている。
なら、まだ書ける。

僕にとって大事なのは、そこだった。

あの続きを読みたい。

けれど、ただライトノベル作家に戻ればいいとは思わなかった。

戻れば、また売る側の都合に巻き込まれる。
読者の顔色を見る。
数字を気にする。

それでは、きっと彼らしく書けない。

僕のために書けばいい。

誰かに売るためではなく。
多くの読者に受けるためでもなく。

僕の隣で事件を見て、怒って、嫉妬して、納得できずに、また言葉にしたくなればいい。

そういう場所を用意すればいい。

幸い、松実はゴシップ記者だった。

若い。
周りから疎まれている。
人の弱みを追うことで、自分の言葉にしがみついている。

なら、来る。

少し薄暗い噂を流せば、必ず来る。

僕はそう判断した。

そして、待った。

情報通りの場所に現れた松実を捕まえ、椅子に座らせる。

初めて目の前で見た仇咲松実は、思っていたより疲れていた。
思っていたより荒んでいた。

けれど、思っていたよりずっと、まだ怒っていた。

折れている。
腐っている。
でも、終わってはいない。

それで十分だった。

僕は笑った。

「探偵になって」

作家になれ、とは言わない。

そんなことを言えば、松実は逃げる。
怒る。
笑う。
なかったことにする。

だから、別の役割を渡す。

事件を見て、人間を見て、納得できないものに首を突っ込む役。

そうすれば、いつか書きたくなるかもしれない。

本当にそうなるかは分からない。

けれど、待っているだけよりはいい。

「記者くん」

そう呼ぶたび、僕は別の呼び方を飲み込んでいる。

君のライトノベルを読んでいた。
続きを待っていた。
まだ、書けると思っている。

その全部を、まだ松実には教えない。

教えたら、逃げるかもしれない。

だからまずは隣に置く。

逃げ道のない場所に座らせて、
笑顔で、役割を渡す。