サザノノ 性分帖。 > 表と裏 > 偽悪的
偽悪的なキャラとは、本当は悪い人ではないのに、わざと冷たく、ずるく、悪い人のように振る舞ってみせるキャラクターのことです。
要点
- 「偽悪」は「偽善」の反対として作られた言葉です。ない悪を、わざと装うことを言います
- 見分ける条件は3つ。悪く見せている・中身は善い人・自分で選んでそう見せている
- いちばん混同されるのは露悪的です。偽悪はない悪を装うこと、露悪は本当にある悪い所をわざとさらすこと
- キャラは「なぜ悪く見せるのか」で決まります。誰かのため、自分を守るため、ただ悪ぶりたいため。理由しだいで、切なくも、かっこよくも、かわいくもなります
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偽悪的の意味と語源
「偽悪」は、デジタル大辞泉で「偽善」に対して作られた語で、わざと悪人を演じることと説明されています。日本国語大辞典でも「わざと悪を装うこと」とされ、対義語は偽善です。偽善が「本当は善くないのに、善い人に見せること」なら、偽悪はその裏返しで、「本当は悪くないのに、悪い人に見せること」になります。
日本国語大辞典が挙げる古い用例は、高村光太郎の詩集『道程』(1914年)です。「偽善と偽悪とを口にする事なかれ」という一節があり、このころには偽善と並べて使われていました。「偽悪的」は、そこに「〜のような」の意味の「的」がついた形で、「偽悪的な態度」「偽悪的な主人公」のように使います。
この言葉の大事なところは、悪い人ではないことが前提になっている点です。見せている顔は悪人で、中身は違う。その差を扱う属性なので、この辞典では表と裏の群に入れています。
偽悪と露悪(ろあく)
よく似た言葉に「露悪」があります。デジタル大辞泉では欠点や悪いところを、わざとさらけ出すこととされ、日本国語大辞典は夏目漱石の『三四郎』(1908年)を古い用例に挙げています。漱石は作中で、偽善と露悪を対にして語らせました。
二つの違いは、悪い所が本当にあるかどうかです。露悪は、本当にある欠点や本音を隠さずに見せること。偽悪は、ない悪をあるように見せること。ただ、どちらも「わざと悪く見せる」点は同じなので、実際には混ぜて使われることも多い言葉です。キャラについて「本当は優しいのに悪ぶっている」と言いたい時は、偽悪的のほうが意味に合います。
偽悪的なキャラかどうかの見分け方
口が悪いだけ、態度が冷たいだけでは、偽悪的なキャラとは言えません。そう呼べるのは、次の3つがそろった時です。
- 悪く見せている:冷たい言葉、法外な要求、乱暴な態度、悪役を名乗る。周りから「ひどい人」「悪い人」と思われるような振る舞いをしている
- 中身は善い人:約束は守る、弱い人を見捨てない、誰かのために動いている。行動を見ると、言葉や態度ほど悪くない
- 自分で選んでそう見せている:照れや癖でつい出てしまうのではなく、悪く見られることを分かったうえで、その役を引き受けている
露悪的・強がり・天邪鬼・ツンデレとの違い
5つとも「本心と違う顔を見せる」と言われやすい属性や言葉です。こう覚えると見分けやすくなります。偽悪的はない悪を装う人、露悪的はある悪をさらす人、強がりは弱さを隠す人、天邪鬼は逆を言う人、ツンデレは好意を隠す人。
| 偽悪的 | 露悪的 | 強がり | 天邪鬼 | ツンデレ | |
|---|---|---|---|---|---|
| 見せている顔 | 悪い人 | 欠点や本音そのもの | 平気な人 | 逆を言う人 | そっけない人 |
| 本当に悪いか | 悪くない | 悪い所は本当にある | 悪さは関係ない | 悪さは関係ない | 悪さは関係ない |
| 隠しているもの | 善さ、やさしさ、本当の目的 | ほとんど隠さない | 弱さ、不安 | 素直な気持ち | 好意、照れ |
| わざとか | わざと選んでいる | わざと見せている | 半分わざと | 反射的、癖 | つい出てしまう |
| 崩れる瞬間 | 善いことをしたのがばれた時 | 見せた悪さを本気で責められた時 | 限界が来て弱さがこぼれた時 | 逆を言えないほど追いつめられた時 | 好意を隠しきれなくなった時 |
いちばん比べられるのは露悪的です。どちらも悪い面を見せますが、露悪的は本当にある悪さを見せ、偽悪的はない悪さを見せます。たとえば「自分は欲が深い」と隠さず言う人は露悪的で、欲などないのに「金のためだ」と言い張って人を助ける人は偽悪的です。
強がりやツンデレは、隠したい気持ちがつい態度に出ているのに対し、偽悪的なキャラは、悪く見られることを自分で選んでいる点が違います。悪ぶる理由が弱さを隠すためなら強がり、好意を隠すためならツンデレに寄っていきます。天邪鬼は、悪く見せたいわけではなく、言われたことに逆らいたい人です。
偽悪的と近い言葉
悪く見せることを表す言葉は、何のために見せるのかで使い分けられます。
| 悪ぶる | 露悪趣味 | 憎まれ役・嫌われ役 | ダークヒーロー | |
|---|---|---|---|---|
| どんな意味か | 実際より悪く見えるように振る舞う。日常でいちばんよく使う言い方 | 自分を目立たせるために、わざと悪い所を見せたがること | 人から嫌われる損な役回り。わざと買って出ることが多い | 悪や暗い手段も使いながら、結果として誰かを救う主人公 |
| 偽悪的との関係 | ほぼ同じ意味の話し言葉。偽悪的はかたい書き言葉 | 悪い所は本当にあるので、偽悪とは逆の向き | 偽悪的なキャラがよく引き受ける役 | 手段が本当に悪いこともあるので、偽悪的とは限らない |
偽悪的なキャラの型
偽悪的なキャラは「なぜ悪く見せるのか」で型が分かれます。
正しいやり方では片づかない問題を、自分が悪者になることで収める型です。周りから責められても弁解せず、助けた相手にも気づかれないことがあります。たとえば、比企谷八幡(『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』)がこの型です。
自分から「悪役」を名乗り、その立場で交渉や戦いに臨む型です。悪役を名乗ることで、きれいごとでは言えないことを言い、背負いにくいものを背負います。たとえば、佐山御言(『終わりのクロニクル』)がこの型です。
法外な代金や無理な条件を突きつけ、相手が本気かどうかを見る型です。冷たく見えますが、覚悟が分かれば手を貸し、交わした約束は必ず守ります。たとえば、ブラック・ジャック(『ブラック・ジャック』)がこの型です。
海賊、盗賊、裏稼業の親分のように、悪党を名乗って欲にも正直なのに、弱い人や子どもは放っておけない型です。口の悪さと面倒見のよさが同時に出ます。たとえば、ドーラ(『天空の城ラピュタ』)がこの型です。
悪い人になりたくて悪事を目指すのに、やることが小さすぎたり、根の善さが出てしまったりする型です。本人だけが悪のつもりでいるずれが笑いになります。たとえば、サターニャ(『ガヴリールドロップアウト』)がこの型です。
大切な人を危険や自分の事情から遠ざけるため、わざとひどいことを言って離れさせる型です。嫌われるほうが相手のためだと信じていて、その思いこみが物語の切なさになります。
裏切られ、傷ついた経験から、最初から悪い人に見せて誰も近づけないようにしている型です。悪ぶりがほどけていく過程が、関係の深まりになります。
誰かの失敗や罪を自分のものとして引き受け、悪名を背負ったまま言い訳をしない型です。本当のことを知る人が現れた時が、いちばんの見せ場になります。
偽悪的なキャラの作り方と台詞例
同じ偽悪的なキャラでも、キャラの性別や、誰に向けた作品かで「悪ぶりが魅力に見えるポイント」が変わります。4つの向きごとに、よくある形と、外し方、台詞例をまとめました。
台詞は「心の距離」の順に4段階で並べています。表の顔 → ほころび(素が一瞬見える)→ 信頼した相手だけ → 独りの時。偽悪的なキャラは表の顔で悪人を演じているぶん、ほころびでは思わず善いことをしてしまう場面を、信頼した相手には悪く見せている理由を、独りの時には誰にも言えない本当の気持ちを置いています。話し方は口振カルテで調整できます。
下に行くほど心の距離が近づきます。同じ人物の4つの顔として読んでください。
自分のキャラクターの顔を置くと、下の台詞をその子が話しているように読めます。
性分帖の台詞は、自分で作ったキャラクターにどんな口調や性格が合うかを確かめるためのものです。画像と名前はこの端末にだけ保存され、ほかの属性のページでも同じ子が出ます。
ドラッグで位置を動かせます
女性の偽悪的なキャラ
女性の偽悪的なキャラは、口の悪い女ボスや、金にうるさい商売人、悪の組織の幹部として描かれます。欲深さや厳しさを堂々と見せながら、いざという時には誰より情に厚い。豪快さとやさしさの落差が魅力になります。
- よくある形
- 子分を怒鳴りつけてばかりの盗賊団の女頭領/代金にうるさいのに貧しい客から取らない薬屋/悪の組織を名乗る小さな集団のリーダー/「性格の悪い先輩」で通している部活の主将
- 外すなら
- 悪ぶっていたはずの彼女が、本当に欲深い一面も持っていて、善と欲の両方が本物だと分かる形にする。または、まわりはとっくに善い人だと気づいていて、本人だけが悪人のつもりでいる形にする
- 気をつけたいこと
- 「本当は優しい女の子」に戻すことをゴールにしすぎないこと。悪ぶる理由を一つ決めておくと、厳しさもやさしさも、その人の生き方として描けます
1表の顔人前・ふだん
「ただで助ける人なんていないよ。払えないなら、働いて返しな。店の皿洗い一か月」
雨の夜、店先で倒れていた少年を見下ろしながら
2ほころび素が一瞬見える
「ほら、まず食べな。働かせるのは、熱が下がってからだよ」
皿洗いをさせるはずの少年に、温かいスープを出して
3信頼した相手だけ見せると決めた本音
「皿洗い一か月、って言った子が今まで何人いたと思う。……全員、皿なんか洗わせてない」
閉店後のカウンターで、古くからの相棒にだけ
4独りの時誰にも見せない本音
「あの子、ちゃんと笑えるようになったね」
少年が置いていった下手な字の礼状を、帳簿の間にはさんで
男性の偽悪的なキャラ
男性の偽悪的なキャラは、嫌われ役を買って出る仲間や、金でしか動かないと言い張る一匹狼、悪役を名乗る主人公として描かれます。誰にも感謝されない場所で人を救い、それを知られても認めない。その頑固さが、かっこよさにも切なさにもなります。
- よくある形
- 報酬の話しかしない凄腕の用心棒/わざと厳しくして後輩を辞めさせようとする先輩/みんなの前で悪者になって揉めごとを収める同級生/悪役を名乗って交渉の席に座る青年
- 外すなら
- 悪ぶりをきっぱり見抜いている相棒を置き、本人が演じれば演じるほど笑われる形にする。または、悪役を演じ続けるうちに、どこまでが演技か本人にも分からなくなっていく形にする
- 気をつけたいこと
- 悪ぶることを、人を傷つけてよい理由にしないこと。わざと突き放した相手がどう感じたかにも、どこかで向き合わせると、ただの言い訳になりません
1表の顔人前・ふだん
「俺がやったことにしとけ。どうせ最初から嫌われてる」
割れた窓の前で、名乗り出られずにいる後輩を背中に隠して
2ほころび素が一瞬見える
「礼なんか言うな。言われたら、やった意味がなくなる」
あとから後輩に頭を下げられて、目をそらしたまま
3信頼した相手だけ見せると決めた本音
「窓一枚で済むなら安いだろ。俺の名前なら、誰も泣かない。慣れてるんだ」
夕方の屋上で、全部分かっている幼なじみにだけ
4独りの時誰にも見せない本音
「慣れてる、ってのは嘘だな」
誰もいない帰り道で、ポケットの中のこぶしを握って
女性向け作品の男性偽悪的なキャラ
女性向けでは、冷たい言葉で主人公を遠ざけようとする男性が、陰では主人公を守り続けていた、と分かる落差が見せ場になります。主人公だけが彼の善さに気づき、悪人の仮面をはがしていく過程が、そのまま恋の物語になります。
- よくある形
- 「関わるな」と突き放してくる評判の悪い同級生/冷酷だとうわさの若い領主/取引でしか動かないと言う闇医者/主人公の縁談をわざと壊そうとする幼なじみ
- 外すなら
- 突き放されても主人公がまったく引かず、悪ぶる彼のほうが振り回される形にする。または、彼が守っていたつもりの主人公が、実は彼を守るために動いていたと分かる形にする
- 気をつけたいこと
- 突き放す言葉や態度を「本当は愛しているから」で全部ゆるさないこと。離れるかどうかを決めるのは主人公です。主人公が自分で選べる余地を残し、ひどい言葉には、あとで彼自身が向き合う場面を置きましょう
1表の顔人前・ふだん
「俺に近づくと、ろくなことにならない。分かったら、もう来るな」
図書室の奥で、差し出されたノートを受け取らずに
2ほころび素が一瞬見える
「なんで、まだいるんだよ。濡れてるだろ、これ使え」
雨の昇降口で待っていた主人公に、自分の上着を押しつけて
3信頼した相手だけ見せると決めた本音
「来るなって、何回言った。六回だ。……七回目を言う前に、来た理由を聞かせてくれ」
夜の公園で、初めて主人公の目を見て
4独りの時誰にも見せない本音
「もう一度、来るなって言えるかな」
部屋の机に、受け取らなかったはずのノートを広げて
男性向け作品の女性偽悪的なキャラ
男性向けでは、悪の組織や魔王軍を名乗るのに、どこか人のいい少女や、主人公に意地悪ばかり言いながら助けてくれる先輩が描かれます。悪ぶるほどかわいく見えるコメディの形と、本当に守るために悪役を演じる切ない形の、両方が好まれます。
- よくある形
- 世界征服をたくらむと言いながら町の掃除をしている悪の幹部/「あなたの弱みを握ってる」と脅すのに手伝ってくれる生徒会の先輩/主人公の前でだけ悪の魔女を演じる隣の家の子/敵のふりをして主人公を鍛える剣の師
- 外すなら
- 主人公が彼女の悪事に本気で付き合い、二人で小さすぎる悪事を計画する形にする。または、悪の幹部を名乗る彼女が、本物の悪人を前にした時だけ誰より強く怒る形にする
- 気をつけたいこと
- 悪ぶりを、ただ子どもっぽさを笑うための記号だけにしないこと。彼女なりに悪を名乗る理由があると、笑いの中にも芯が通ります
1表の顔人前・ふだん
「ふふん、今日の悪事はこれよ。この町の落書き、全部わたしの絵で上書きしてやるんだから」
ペンキの缶とはけを抱えて、高架下の壁の前で
2ほころび素が一瞬見える
「ちょっと、近所の子に手伝わせてどうするの。悪事なんだから、わたしひとりで……え、楽しい? そう……」
集まってきた子どもたちにはけを取られて、困ったように笑って
3信頼した相手だけ見せると決めた本音
「通知表、十二年間『おとなしい子』だったの。壁一枚塗ったら、町中が名前を覚えた」
塗り終えた壁の前に座りこんで、主人公にだけ
4独りの時誰にも見せない本音
「明日の悪事、何にしよう。また、あいつが来るといいな」
夜、ノートの「悪事計画」の欄に花丸を描いて
偽悪的なキャラを書く時のコツと避けたいこと
コツ
- 悪く見せる理由を一つ決める:誰かを守るため、自分が傷つかないため、悪役にあこがれているため。理由が決まると、どこまで悪ぶるかの線が引けます
- 言葉と行動をずらす:言葉は悪人、行動は善い人。台詞で悪ぶっても、手は困っている人に伸びている。このずれを読み手が先に気づくように置くと、偽悪的な魅力が立ち上がります
- 見抜く人を一人置く:「どうせわざとでしょ」と言う相棒や主人公がいると、悪ぶりが場面の中で光ります
- ばれた時の反応を決めておく:善いことをしたのがばれた時、認めるのか、怒るのか、照れてごまかすのか。その一瞬に人柄が出ます
- 演じることの代償も描く:誤解されたまま、感謝されないまま。悪人を演じるつらさを一度見せると、薄っぺらな「本当はいい人」で終わりません
悪ぶる理由で変わる見え方
悪く見せる理由によって、偽悪的なキャラは近い属性と重なっていきます。
| 悪く見せる理由 | どう見えるか | 重なりやすい属性 |
|---|---|---|
| 弱さや不安を知られたくない | 無理をしている、放っておけない | 強がり |
| 好きな相手への照れを隠したい | 素直じゃなくてかわいい | ツンデレ |
| 誰かを守るために、自分が悪者になる | 切ない、報われてほしい | 自己犠牲 |
| 悪や不良にあこがれている | 背伸びしていて憎めない | 厨二病・不良・ヤンキー |
| 本心を読ませないために怪しく振る舞う | 信用していいのか迷う | 胡散臭い |
避けたいこと
- 「本当は優しいから」の一言で、人を傷つけた言葉や行動を全部なかったことにすること。わざとでも、相手が傷ついたことには答えを出しましょう
- 悪ぶっていれば何をしても許される、という見本にすること。現実の乱暴な言動や冷たい態度を「本当は優しい人のしるし」として読む見本にしないよう、行動の善さをきちんと描きましょう
- 悪ぶりの理由を最後まで決めずに、場面ごとに都合よく悪人と善人を行き来させること。読み手が、どちらの顔も信じられなくなります
偽悪的なキャラに合う口調・組み合わせやすい属性
合う口振(口振カルテへ)
口振は「どうやって悪人に見せるか」で選びます。皮肉でかわすのか、短く突き放すのか、強気に言い切るのか、自分を下げて嫌われにいくのかで、同じ偽悪的でも印象が変わります。
組み合わせやすい属性
偽悪的に自己犠牲を重ねると、誰にも知られずに悪名を背負う、いちばん切ない形に。強がりなら、悪ぶることで弱さまで隠している人になります。一匹狼に重ねると、人を遠ざけるために悪人を演じる孤高の人に。苦労人なら、損な役回りを黙って引き受け続ける人になります。不良・ヤンキーに寄せると、見た目も態度も悪いのに、弱い者には手を出さない人に。天邪鬼を重ねると、ほめられるほど悪ぶってしまう、ひねくれた人になります。
ぶつかりやすい属性(あえて使うと面白い)
素直クールや天然は、偽悪的とは一人に重ねにくい属性です。ただし関係性で並べると引き立ちます。素直クールな相棒が「今のは善い行いだ」と悪ぶりを毎回まっすぐ言い当て、偽悪的な側が言い返せなくなる。天然の主人公が悪ぶりにまったく気づかず「優しいね」と言い続け、悪人を演じる側の調子が狂う。見抜く人と気づかない人、どちらと並べても掛け合いが生まれます。
偽悪的の歴史
偽悪的がキャラクターの属性として呼ばれ始めた時期は、はっきりしていません。ここでは、言葉の成り立ちと、年が確かめられる作品の流れをまとめます。
年表を開く
夏目漱石の小説に「露悪」という言葉が出てきます。作中では偽善と対にして語られ、日本国語大辞典はこれを露悪の古い用例に挙げています。
高村光太郎の第一詩集が刊行されます。偽善と偽悪を並べた一節があり、日本国語大辞典はこれを偽悪の古い用例に挙げています。
法外な報酬を求める無免許の外科医が主人公の医療漫画が始まります。冷たい態度と、患者の覚悟を見たうえで手を貸す姿の落差は、偽悪的な主人公の古い代表例として長く読まれています。
アニメ映画に、欲に正直で口の悪い空中海賊の女首領が登場します。悪党を名乗りながら子どもたちを受け入れる姿で、女性の偽悪的なキャラの印象を残しました。
自ら悪役を名乗って交渉の席に立つ主人公のライトノベルが刊行されます。悪役であることを自分の役目として選ぶ形が描かれました。
自分が悪者になる方法で問題を収める高校生が主人公のライトノベルが始まります。嫌われ役を引き受ける主人公と、そのやり方に反発する仲間の関係が、作品の大きな軸になりました。
大悪魔を自称しながら、やることが小さく、根の善さが出てしまう少女が登場する漫画が始まり、2017年にアニメになります。悪ぶりたいのに悪くなれない、コメディの形も定着しています。
自分が物語の悪役だと知った主人公が、悪役を演じきろうとしたり、破滅を避けようとしたりする悪役令嬢や悪役令息の作品が広がります。悪役という役と、中身の善さのずれを楽しむ作品が増えました。
今の偽悪的なキャラのイメージ
- 「本当はいい人」がばれる瞬間が見せ場:悪ぶっていた人の善い行いが明らかになる場面は、どの向けの作品でも好まれています。悪役なのに憎めない、悪いだけじゃないキャラは、強く推されやすい型です
- 切ない形とかわいい形の二つ:誰かのために嫌われ役を背負うシリアスな形と、悪ぶりたいのに善人がにじむコメディの形があり、同じ言葉で呼ばれても印象は大きく違います
- 悪役を演じる物語の広がり:悪役令嬢や悪役令息のように、「悪役という役」と「中身」のずれを楽しむ作品が増え、偽悪的な振る舞いはより身近な型になっています
- やさしさの描き方が問われる:ひどい言葉や態度を「本当は優しいから」で済ませる描き方には、受け手の目が厳しくなっています。悪ぶりの代償や、傷つけた相手への向き合い方まで描く作品が好まれています
- 男女どちらにも:嫌われ役を買う少年や一匹狼の男性だけでなく、口の悪い女ボスや悪の幹部を名乗る少女のような、女性の偽悪的なキャラも多く描かれています
- 日常語ではかための言葉:日常では「悪ぶる」「わざと悪者になる」と言うことが多く、「偽悪的」は評論や作品の紹介などで使われるかための言葉です。「露悪的」と混ぜて使われることもあります
よくある質問
偽悪的とはどういう意味ですか?
本当は悪い人ではないのに、わざと悪い人のように振る舞うことです。「偽悪」は「偽善」に対して作られた言葉で、辞書では「わざと悪を装うこと」と説明されています。読み方は「ぎあくてき」です。
偽悪的と露悪的の違いは何ですか?
偽悪的は、ない悪をわざと装うことで、中身は悪くないことが前提です。露悪的は、本当にある欠点や悪い所を、わざとさらけ出すことです。どちらも悪く見せる点は同じなので、混ぜて使われることもありますが、「本当は優しいのに悪ぶっている」キャラには偽悪的が合います。
偽悪的の対義語は何ですか?
偽善的です。偽善は本当は善くないのに善い人に見せること、偽悪は本当は悪くないのに悪い人に見せることで、ちょうど裏返しの関係になっています。
偽悪的とツンデレの違いは何ですか?
ツンデレは、好きな相手への照れや好意を、きつい言葉で隠してしまう人です。偽悪的なキャラは、好意に限らず、自分の善さや本当の目的を隠すために、悪い人に見えることを自分で選んでいます。照れからつい出てしまうならツンデレ、理由があってわざと悪人を演じているなら偽悪的です。
偽悪的と強がりの違いは何ですか?
強がりは、弱さや不安を隠して平気なふりをする人です。偽悪的なキャラは、善さを隠して悪い人のふりをします。隠しているものが弱さなら強がり、善さなら偽悪的と覚えると分けやすくなります。
偽悪的なキャラはいつ本当の姿を明かせばいいですか?
決まりはありません。読み手にだけ早めに善さを見せ、作中の人物は気づかないままにする書き方もあれば、最後まで伏せて大きな見せ場にする書き方もあります。悪く見せる理由と、ばれた時の反応を先に決めておくと、明かす場面が自然になります。
偽悪的は英語で何と言いますか?
決まった一語はなく、pretending to be bad(悪いふりをする)や、acting worse than one really is(実際より悪く振る舞う)のように言い表します。
次に読む
参考にした資料
- コトバンク「偽悪」(デジタル大辞泉・日本国語大辞典の語釈、初出の用例)
- コトバンク「露悪」(デジタル大辞泉・日本国語大辞典の語釈、初出の用例、露悪趣味)
- ニコニコ大百科「偽悪」(偽善から作られた言葉、露悪との関係)
- ニコニコ大百科「露悪」(『三四郎』での使われ方、露悪趣味)
- Oggi.jp「道程」の意味についての記事(高村光太郎『道程』の刊行年)
- Wikipedia(日本語版)「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」(刊行年、比企谷八幡の人物像)
- Wikipedia(日本語版)「終わりのクロニクル」(刊行年、佐山御言の人物像)
- Wikipedia(日本語版)「ブラック・ジャック (架空の人物)」(連載開始年、報酬と人物像)
- Wikipedia(日本語版)「天空の城ラピュタ」(公開年、ドーラの人物像)
- Wikipedia(日本語版)「ガヴリールドロップアウト」(連載開始年・アニメ放送年、サターニャの人物像)
- 公募ガイド コミックシーモア「推せる悪役」キャラクターランキングについての記事(悪いだけではない悪役が支持される声)

